「佳那、愛してる」
そう言って抱きしめる

「やめて、精市…」

「世界で一番大切な人だよ」

「精市…ねぇ…やめて…」

佳那はそう言って俺の胸を押して離れようとする
絶対、離さない
俺は更に強く抱きしめた


「…私、死ねなくなる」

佳那は今日、薬物注射によって死ぬ


安楽死、ということだ
佳那は治る見込みのないという事で、薬物注射を選んだ

「死なないで」

「…もう痛いの嫌なの…」

佳那は毎晩、いや俺が見ないところで苦しんでいた


「死なないで、佳那」

「…ごめん」

もう一度言った俺の言葉に一言謝ると力なく俺に寄りかかった


ーーー…

「いいですね?」

「はい…」


佳那のこの一年間過ごした病室でそれは行われた
佳那の家族とそれと佳那の親友の貴子、俺に見守られながらその針は佳那の腕に入り込んだ


「佳那…」

「お父さん、お母さん、りみ…今までありがとう」

「佳那、生まれてきてくれてありがとう…」
「佳那、たまに家に化けて出てこいよ…?」

「お姉ちゃん…」

「貴子、仲良くしてくれてありがと。好きだよ」

「アホ。あの世、どうなってるか見てきて教えてよ。好きだよ、」


それぞれに挨拶をすませると佳那は俺を見た

「…精市、愛してる、バイバイ」

「…俺もだよ、佳那。愛してる」

そう、お互い、微笑んだ


彼女は一生目が覚めなくなった
寒い、冬の日だった




ーさよならは「愛してる」と共にー
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