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▽正直に、好きって言えよ


「はあ……」

夕陽が眩しい。屋上に降り注ぐ西日が、早く帰りなさいと促しているかのようだ。結局わたしは柿崎くんの告白を断って、いても立ってもいられなくなりここに来た。というのも、鞄を教室に置きっぱなしにしてしまっていたから。

今戻れば加賀くんと鉢合わせるのは明確だった。今、あの余裕に満ちた顔を見てしまったら、きっとわたしは平常心なんて保っていられないだろう。にしてもいつになったら教室に戻ろうか。夕焼けチャイムが鳴る。

柿崎くんの顔、つらくてまともに見られなかったけど、悪いことしちゃったな。せっかくわたしを呼び出して告白をしてくれたのに、相手はソッコーごめんなさいって言って逃げ出したんだもん。せめてちゃんと向き合って言えばよかった。

ーーー今更遅いか、何を言っても。フェンスにガシャリと寄りかかると、わたしの体重を批判するかのように悲鳴が小さく上がった。少しむっとする。

この場から動く気になれなくて、わたしはぼおっと校庭を見下ろした。時折風で砂埃が舞っていて、それがなぜだか幻想的だった。自分があの場にいたら目を押さえて最悪だ、なんてぼやいていそうだけど。

「…ねえ、そこにいるんでしょう」

カシャン。遠慮がちな音がした。後ろを振り返るとやっぱりだ、加賀くんの姿。ドアからのそりと姿を現した加賀くんは、不服そうな目でこちらを見ていた。わたしに気配を勘づかれたのがそんなに悔しかったのか。

「バレたかー、いけたと思ったんだけど。何でわかった?」

「何となく。来るかなって気がしてたから。」

「ふーん…」

加賀くんはわたしの隣に並ぶと、わたしとは反対向きになってフェンスに背中を預けた。今度はフェンスは悲鳴をあげずに加賀くんの背中を受け入れている。いやに静かだった。

来るかなって気がしてたから。わたしはそう言ったけど、まるでわたしが加賀くんが来てくれることを望んでるみたいだな、なんてのんきに思った。

「でさあ、返事。何て言ったの」

「加賀くんには関係ない」

「あ、断ったんだ」

「………」

なんだろう。見透かされているのが、嫌でもなんでもなくなった。むしろそこには気づいてほしいと思っていた自分がいたし、それすら驚かなかった。なんだよ。何なんだよ。

「村木さん。もうさ、意地張んないでもいいんじゃない?」

うわあ。バクンと心臓が跳ねた。なんだこれ、もう死ぬのか。まだ、まだせめてもう二十年は生きていたかった。成人式で振袖着たかったし、結婚式でウェディングドレスも着たかった。

「な、なにが」

声がひっくり返る。視線が床をさ迷う。背中をフェンスから離す。ガシャリ、わたしが離れた箇所のフェンスが手招きをしていた。

「もうさ、正直に、好きって言えよ」

「…そうだね。わたしの負け」

「ねえ。人の話聞いてた?」

真横からため息まじりの声。振り向けばそこには、夕陽を背負って立つ加賀くん。いつものとおりムカつくくらいかっこよかった。誰が言うもんか。加賀くんが言ってくれない限り、わたしは絶対言ってやらない。

正直になんてなるもんか。



確かに恋だった様より


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