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▽俺を惚れさせてみな


あの衝撃的な第一声をくらってから、わたしは加賀くんが大の苦手になった。だって図星だったし、なんだかドキドキさせられたし。

不思議なことに、あれ以来は何もなかったみたいに話し掛けてこない。それがありがたいのなんのって。男の子とロクに話せないわたしが、かっこいい人と話すなんて無理だ。

そんな危険人物の加賀くんは、女子にものすごく人気がある――って何だかそれこの前も言ってたような。
まあいいか、率直に言おう、わたしは今、告白現場に遭遇してしまっている。

相手は勿論加賀くんで、彼に告白しているのは、男の子が口を揃えて「美人!」と高評価しそうな女の子だった(後ろ姿しか見えないから何とも言えないけど)。

背は外国人みたいにすらりと高くて、背中に垂れるサラサラした焦げ茶の髪が太陽に反射してやたらと眩しい。
思わず目を細めながら、わたしは黙って突っ立っていた。

何となくだ。加賀くんの返事が気になるし、それに何より足が動かない。こうやってガラス越しに眺めていると、2人は別世界にいるように思えてくる。

わたしと2人を隔てる壁は分厚くて、ブチ破れそうにない。にしても加賀くんは何て言うのだろうか。俺も好きだよ?ごめんな?ちょっと考えさせて?

でも、あれだけ美人な女の子に告白されたら誰だってドキドキするだろうな。もしわたしが加賀くんだったら即オッケーしちゃいそうだな―――

そんなところまで考えてから、またガラスの向こうへと視線をやった。
…あ、あれ、いない。女の子はまだいるけど肝心の加賀くんがいない。女の子は俯いたままぴくりとも動かずに突っ立っている。

もしかして、振られた、の?あんなかわいい女の子なのに。そう考えたらこっちが苦しくなってきた、よく見ると彼女の肩が震えていたから。

「信じらんない…」

「盗み見してた自分が?」

「ひっ!」

背後からの声と図星に、わたしは腰が抜けるかと思った。死にたくなりながら振り返ると、そこにはやっぱり危険人物・加賀くんが立っていた、あのニヤニヤ笑いを浮かべて。

うわあ、今すぐに逃げたい。誰か助けて。今なら泥棒だって強盗だっていいから、わたしをこの場から引き離してください頼む。

「何で見てたの?」

「気になったから、何となく」

「俺があいつと付き合ったら困るんだ?村木さんは」

「女の子がかわいかったから鼻の下伸ばしてたんじゃないのって冷やかしたかっただけ」

「…そ、」

加賀くんはポケットに手を突っ込んで、ガラスの向こうをじっと見ていた。あの女の子はいつの間にかいなくなっていて、わたしは何とも言えなかった。

わたしが加賀くんを見上げていると、さっきの鋭い瞳はどこへやら、また半分バカにしたような笑みをこぼしながら声を掛けてきた。

「…村木さんて彼氏いないんだろ、そんじゃ告白されたこともないんだよな?」

だから、何で加賀くんはわたしの知られたくないことを知っているの。思わず後退りするわたしに一歩、また一歩と近付いて、加賀くんは静かに笑う。

あの笑顔とはまるで違う、余裕の笑みだった。夕陽が廊下を照らして、それがさらに加賀くんを照らしだす。まるでスポットライトみたいだ。

とん、と背中に壁がぶつかったところで、加賀くんは壁に手をついて思いきりわたしに顔を近付けた。うわあああああああ近い近い近い近い近い近い近い近い。

「…俺を惚れさせてみな。そしたら告白してやるからさ」

「………加、」

「じゃあね、“奈保ちゃん”」

わたしは発火した。村木奈保、ブレイクオーバー。ずるずると廊下に倒れこんだわたしは、しばらくの間動けなかった。



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