▽お前、彼氏いないだろ?
「お前、彼氏いないだろ?」
第一声がこれだった。
うぜえ。何こいつうぜえ。イケメンだからってうぜえ。非リア充代表として今すぐにぶん殴ってもいいですか?
わたしは目の前で涼しげに笑う男の子を見上げながら思った。そういうことは心のなかでこっそり思っておけばいいのよ!
ええそーですよ、わたしは生まれてこのかた彼氏なんかできたことないですよ!彼氏いない歴=年齢の女とはわたしのことよ!花の女子高生になったというのにまだデートも…
とわたしが表情を変えずに脳内で自虐していると、男の子はまだわたしを見て笑っている。すごく整った顔立ちだから、劣等感を抱かされた。
この男の子、かっこよくて(それは認める)運動神経抜群(それも認める)、成績だってなかなかのもの(まあわたしには負けるけど)。といった女の子が大好きなスペックの持ち主だ。
これで性格がよければ、さすがのわたしだって「おっ」と思うだろう。でも第一声がアレじゃあ、ねえ?誰だって好きになるどころか嫌いになるわよ。
現に、わたしはこいつ――加賀くんにはもう話し掛けてほしくないし。だって図星だし。だってなんかまわりの視線が痛いし。ああ泣きたい。
「なあ村木さん」
「…なに」
名前を呼ばれたのでしかたなく反応する。今更ながら、加賀くんと隣の席になってしまった自分のくじ運を恨んだ。
「質問に答えろよ、」
「やだ」
「……」
……っしゃあああ黙った!勝った!勝ったわ!これでこのイケメンとはもう話すこともない!あとは加賀くんがどこか行けば完璧なわたしの勝利――
「図星?」
ぴし、浮かれていたわたしの額に青筋が浮かんだのがわかった。と同時にやっぱりね、そう言いたげな加賀くんの余裕たっぷりの横顔が見えて更にむっとした。
でもここで声を荒げるほどわたしはバカじゃない。落ち着いて深呼吸してみる、残念ながらむわっとしていて空気はおいしくない。
「…うん。いないよ、彼氏」
思った以上に落ち着いた声が出た。
言ってからバカにされるんじゃないか、笑われるんじゃないかという思いが込み上げてきたけれど、加賀くんはなぜかクスリとも笑わなかった。
じっと黙ったままの加賀くんは、まだわたしを見つめている。恋愛経験がまるでないわたしにとって、相手が誰であれ見つめられるのには慣れていない。
おかげさまで顔が上げられなくなってしまったじゃない。いっそ机に伏せようかとも考えたけど、それだとなんだか負けな気がしてできなかった。
ようやく加賀くんがわたしから視線を外した。助かったあ、ほっとため息を洩らしたのもつかの間、加賀くんはわたしにトドメを刺した。
「そんじゃー狙ってみっかな」
「…っ!?」
「ハッ、冗談だよ」
言い終わらないうちに加賀くんは席を立って、みるみる他の男の子の輪のなかに溶け込んでいった。わたしが入れない、輪のなかへと。
ムカつく、わたしは今度こそ机に突っ伏した。負けたと思った。心臓の音だけがやけにうるさかった。