▽無口になるきみとは逆に
「…有美」
「んー」
「俺、有美のこと好きだよ」
カコカコとボタンを押すせわしない音が、面白いくらいにぱたりと止む。背中から有美の緊張が伝わってきて、こちらもどきどきした。
有美は携帯を閉じた。パチンという音がしたからわかった。それから盛大なため息が、言葉といっしょに吐き出される。
「1、頭をぶつけた。2、拾い食いした。3、いつもの気まぐれ。さあどれ?」
「全部はずれ」
「……4、本気」
「あたりー」
俺がははっ笑うと有美はばっかじゃない、と吐き捨てるように言った。でも背中をさっきよりも預けてくれているあたり、彼女は本気で怒ってはいない。
足をぶらぶらさせながら、俺は有美に背中を深く預ける。
――重い。背後で有美がぶつぶつ言っていたけど、頭突きしてこないからこのままでいい。
こうした甘く心地よい沈黙のなかに彼女と2人きりというシチュエーションは、俺にとってはありがたいけどありがたくなかった。
何だか知らないけど、俺は誰かと2人きりになるのがひどく苦手だった。それは親しい友人でも恋人でも変わらない。
だから今の俺は心臓が口から飛び出そうで、それを悟られぬよう、普段はとても言えないようなことを言って誤魔化していた、が。
「ねえ誠司…もしかして今緊張してる?」
「………」
「“あたりー”?」
「…あたり」
誠司は照れるとお喋りになるんだね、発見しちゃった。有美の無邪気な笑顔に負けて、俺は“あたり”と返した。