▽insane devil
“大好きです、付き合ってください。”
こんなもんか。俺はうんうん唸った末に残った1行を見直して、便箋を封筒にしまった。
頭のなかで何度も繰り返す。これ読んでください、そう言ってこの便箋を彼女に渡す。ああ、彼女のことを考えただけでドキドキする。
あまり喋らないし表情豊かでないけど、時々見せる笑顔が花よりもやさしくて抱き締めたいと思う。美人とかかわいいとかじゃない、不思議な魅力がある。
これをあの笑顔で受け取ってくれたら、たぶん俺は悶絶するんだろうなあと口元が緩む。
よし寝よう、明日に備えて。
次の日の放課後。俺は昨日の手紙(ラブレターって響きは恥ずかしい)を手に、校門の前で彼女が通るのを待っていた。
彼女はいつもひとりでさっさと帰ってしまうから、俺は掃除当番をお腹が痛いと理由をつけてサボり、校門の前を陣取った。
あ――来た!まわりと違い、携帯をいじったり音楽を聴いたりせずに、しっかりと前を見据えて彼女はやってきた。
「あっあの!」
「?」
緊張して声と膝が震える。そんな情けない声に、彼女が目を丸くしながらこちらを見た。うわ、目、おっきい。
「こ、これ…これ……」
がくがくと震える腕を無理矢理に持ち上げて、彼女に手紙を差し出した。シュミレーションしたのに言葉がまるで続かない。
恥ずかしさと不安とがごちゃ混ぜになって、もう泣きそうだ。告白なんて今まで一度もしたことがないから、どう言えばいいのかさっぱりわからないし。
「…これ、わたしに?」
「え?あっ、その……うん」
誘導された。男らしくないなあと思いつつ、だから読んでください、と言葉はつっかい棒を失ったようにすっと出てきた。
彼女は黙ったまま俺を見つめて、それからそっと手紙を受け取った。想像していたのとまるで違う、氷よりも冷たい表情で。
その細い指先が封筒をすくい、そしてそれを口に入れた。わけがわからなかった。ザク、とかバリ、とか紙を裂く音がやたらと響く。
「わたし、あなたのこと好きだよ。だからあなたに触れてる手紙が憎くて憎くてたまらない」
ニコッと花のような笑顔で笑う彼女は、今の俺にはもう、ただの悪魔にしか見えなかった。