▽吸血魔法にかけられて
何の躊躇もなく、あたしはざっくりと切った。
ぽたり、赤色が腕から垂れる。つっと流れ落ちた液体は絵の具とは違い綺麗でどきどきした。
カッターにも少しばかり付いていたけれど、腕を流れるものとは比べ物にならないくらい格下だ。ああ、はやく、
あたしはすっと腕を差し出した。その光景をじっと見ていた少年は嬉しそうに笑ってから、あたしの傷口に吸い付く。
ちろ、と舌が当たってぞくりと背筋に電気が走り、脳天が痺れた。ああ―――キモチイイ。
この少年は血液が好きだ。もちろん彼は吸血鬼ではないし、ここはライトノベルのような世界でもない、あなたがいる現実。
少年は殺人願望があるわけでなく、血が見たいわけでもなく、飲みたいのだ。じゅるる、腕から甘い音がして頭がくらくらしてきた。
いつだったろうか、彼があたしの腕を傷付けて、口を真っ赤に染めて血をすすったのは。
あの恍惚と快感にまみれたきらびやかな表情は忘れられない。
それからというもの、あたしは自らの腕を切って彼に血を飲ませてあげている。
人は異常だとあたしを笑う、でもそんなことどうでもいい。
「お腹いっぱいになった?」
「うん、ありがと」
少年は傷口から口を離して、ふわりと笑んだ。口元があたしの血で綺麗に染まっている。彼の笑顔はとてもかわいい。
「また飲ませてね」
――もちろん待ってる、また来てね。だってあたし、あなた以外の蚊に血を吸われたくないのよ。
あたしの言葉に、彼は羽音で返事を返して飛び去った。