▽最悪なのは自分の勇気のなさ
最悪だ、僕は心の中で呟いた。最悪だ。
つかつかと響く足音は僕の感情を忠実に表現していてうざったい。それはもう、冷えた廊下を睨んで、うざい、そう言い放ちたいくらいだった。
おかげさまで予定が大幅に狂ってしまった。プランBはAと違い無理なく進められたのに、ここにきてこんなしょうもないミスを犯してしまうとは。
焦りから僕はメガネを押し上げる。これは僕が考えたり、集中したりするときの癖なのだそうだ(友人に言われるまで気付かなかったが)。
ああ、どうするか。プランBは破綻。このまま強引に進められるとは思えない。さすがに2つとも失敗するなんて予想していなかった。
相変わらずせかせかと早足で歩きながら頭をフルに回転させていると、どん、と身体に鈍い衝撃がきてよろけた。痛い。何だ。
無意識で瞑っていた目を開けると女子が額を押さえていて、どうやら僕は女子と正面衝突したらしかった。何してるんだ僕は。これは何の漫画だ。
「ごめんね、前ちゃんと見てなくて」
「あ…いや」
僕が首を横に振ると、その子は向こうから来た友達に呼ばれて、もう一度謝ると行ってしまった。
立ち止まったまま、僕は考える。
もしかして今は話すチャンスだったのではないか。いや、もしかして、じゃない、絶対だ。そもそもどうして僕はきちんと謝れていないんだろうか。明らかに僕も前方不注意だったのに。
だからクラスの皆からは、クールだの落ち着いてるだの、大人っぽいだのなんだのとまるで違う評価ばかりもらってくるんだ。
どくりどくりと音を立てる心臓を押さえつけて、僕は自分に嫌気がさした。ああ、もう。
「…最悪だ」