▽境目を知らぬ少女は叶わぬ初恋を続けてる
一冊の本をぎゅっと抱き締める。わたしは大好きなあの人のことを思い浮かべて、ついつい口元を緩ませた。
あの冷たい眼差しがひどく綺麗で、さらさらした黒髪に触れたくなるのを必死で抑える。男の子なのに肌はとてもキメ細やかで、指を滑らせたら心地いいだろうに。
そうしていたずらをするわたしの手を取り、こう呟く。好きだ。
わたしは小さく頷いてから目を閉じる。顔が近付いてくるのを感じながら――
「いけない」
また、妄想に浸ってしまった。わたしは脳内で繰り広げられる都合のいい妄想に、だらしなく目尻を下げてニヤニヤとしている。
だめだめ、こんなんじゃ、わたしと彼と釣り合わない。わたしはふう、とため息をついてから手中にある本に目を落とした。
ああ、彼の笑顔――表紙の彼はわたしに向かって微笑んでいる。それがどんなに幸福なことか。わたしはパラパラとページをまくった。
華麗なアクションを見せる彼、涙を流す彼、照れ臭そうに笑う彼。時々わたしが求めていない人間が映るけれど、関係ない。
わたしはそこをビリビリと破り捨て、ゴミ箱に押し込んだ。くしゃ、悲しそうなゴミの声が聞こえたけど、そんなのはどうでもいい。
「…ふふ」
だいすきよ、真人くん。
わたしは先ほどの漫画に目を落としたまま、にこりと笑った。