▽無言
わたしがいじめられて泣いていたとき。あなたはいつも笑って、「かわいいんだから、笑ってよ」って、頭を撫でて慰めてくれたっけ。
わたしが不良に絡まれて困っていたとき。あなたはいつもじゃ考えられないような鋭い目で「この子にベタベタするな」って言って、追い払ってくれたっけ。
わたしが第一志望の大学に合格したとき。あなたは自分のことみたいに「頑張ったからだよ、おめでとう」って半泣きで喜んでくれたっけ。
―――ねえ。
どうしてだろう、あなたのてのひら、冷たいよ。わたしの手を握ってくれた手も、わたしの頭を撫でてくれた手も、全部あたたかかったのに。
―――ねえ。
聞こえてるんでしょう。生きてるんでしょう。本当は寝たフリで、わたしが泣き出したら飛び起きて、「驚いた?」って笑ってくれるんでしょう。
―――ねえ。
わたし泣いてるよ。ほら、ほら、嘘泣きなんかじゃないよ。あなたの輪郭がぼやけてはっきりしない、息が苦しいよ。
―――ねえ。
どうして目を開けてくれないの。胸を上下させてないの。息してないの。喋ってくれないの。ねえ。わたし、狂いそうだよ。
…ねえ。返事、して。