また 今度





「パパっ 早く早く!!」

「今いくよー」

公園に着いた途端
はしゃいで走っていく樹を追いかけ 自然と早足になる
ここの公園はかなり広く 広場を抜けるとアスレチックが
数多く設置されていて 子供にはもってこいの遊び場だ
中央には1番巨大なアスレチックがありそこの頂上に登ると
公園全体が見渡せるようになっている

…ん? 鉄棒の練習はどうしたかって?
後回しに決まってるだろう 樹が遊ぶ方が大事だ

キョロキョロしている樹に追いつき どうした? と声をかける
沢山あるアスレチックに どれから遊べばいいのか迷っているらしい
困った表情で話す樹の頭に手を置いて
順番に回ったらどうかと提案してみる するとぱっと笑顔になり
1番目のアスレチックまで また走っていった
走る後ろ姿に 転びやしないか冷や冷やしていると
グルンと方向転換しては 駆け足で戻って来る
息を切らして俺の側まで来ると 満面の笑みで手を差し出した

「一緒に行こ!」

あぁ 可愛いな もう

差し出された小さな手を取り 小走りで向かった先は丸太平均台だ
かなり ふらふらしながらも 両手を広げてバランスを取り
真剣な表情で渡っている息子を スマホで捉える
(可愛い…おちょぼ口になってる)
渡り終えた樹に拍手を送ると膨れっ面になった
…えっ どうした……


「パパが一緒じゃないと つまんない」

「あ うん ゴメン」

またもや 可愛い発言をする樹に 顔がにやけるのが抑えられない
次の遊具は 三角の斜面版か… 子供はともかく 大人だと下りる時に
持つ所が低いせいもあって 足をくぐらせるのが微妙に難しい
子供のように 間を通り抜けることも出来ないしな……
難なくクリアする樹に かっこ悪い所は見せられないぞと
やってみて初めてわかったが これが結構滑りやすい
樹がどうやって あんなにスイスイ登れるのかが不思議だ

(フラつかなくて良かった……)
クリアしてほっと一息つき 次に進む…思っていたよりも
難しく感じる遊具に 舐めてかかると駄目だと 気合いを入れる


その後

『ジグザグ平均台 』

『平行棒』

『揺れる丸太』

『ターザンロープ 』

無事 かっこ悪い姿を見られる事なく遊具をクリアしていった
揺れる丸太は 樹には少し難しかったらしく
何度も落ちるの繰り返しだったので 諦めて俺と手を繋いで渡った
悔しそうな表情も可愛いくて 写真を撮ったら 拗ねてしまったが
その後のターザンロープが楽しかったらしく
何回もする内に 機嫌も直ったから良かった

「次は何かなぁ?」

「んー 次は雲梯だな」

「うんてー?」

「【い】だよ…う・ん・て・い 学校にもあるだろ?次はそれだよ」

「ん〜 あったと思う……う・ん・て・い!!」

言い方が面白かったのか クスクスと笑いながら
う・ん・て・い!!と繰り返す樹につられて笑う
いざ 雲梯をやろうとして 気付いたのか 樹の身長では手が届かない
わかってはいたが 困ってる樹を見るのは面白いので
そのまま放置していると 俺に抱っこしてと強請る樹を
要望通り抱き上げて 体を密着させた

「……そうじゃないよ」

「いや…可愛いからつい」

手が届くように抱き上げ 棒を掴んだらゆっくりと放してやる
ぷらぷらと ぶら下がる樹を見て 俺は はっと気付き後悔した
(こっ これは……!!)
棒へぶら下がった事により
服が上に引っ張られてしまい 腹が見えているではないか
息子の可愛いお腹が 他人に見られてしまう事態に眉を顰める
(くそっ……何て卑劣で卑猥な遊具だ)
進む度に服がぴらぴらと動き 腹ちらサービスを提供している状況に
まったく持って気づいていない樹を これ以上見てられない
いや…見せられないと足を踏み出した

「……樹 雲梯は止めるんだ」

「え?」

樹の側に寄り 身体を支える
突然の事に 目をぱちくりとさせ固まる樹は
降ろされるとわかったのか 嫌々と抵抗し出した

「やだっ 最後までするー!」

「……わかってくれ 樹の為なんだっ」

再度降ろそうとするも 樹はじたばたと足を動かしては
俺の手を振り払おうとする ちょっ…危ない 落ちたらどうするんだ
慌てる俺に 邪魔しなかったらいいでしょと不機嫌に訴えてくる
…まぁ そうなんだが……

「どうして やめなくちゃいけないの?」

「そっ…それは……その………」

樹のお腹が見えるから 何て言っても だから何? で終わるに違いない
まだ抵抗を続ける樹にどう言い訳しようか
考えてると 俺が一番聞きたくない台詞を叫んだ

「うんてい させてくれないなら
  パパのこと 嫌いになっちゃうよ!!」

「なっ…」

何て事だ…… 雲梯は樹のお腹を見せるどころか
それを阻止しようとする 俺を嫌いになるように 仕向けるとは
……何て恐ろしい遊具だ
樹の腹ちらは阻止したい…しかし嫌われるのはもってのほか
それだけは勘弁したいので渋々 本当に渋々手を放してやると
解放されて喜ぶ樹は 俺の気も知らないで グングン進んでいく

(…早く クリアしてくれよ)
そう祈りながら 周囲に眼を配らせる 樹の腹ちらを見る輩がいないか
ましてや 盗撮する人物が現れやしないかと不安になり
そこまで考えてから俺はシャッターを押す 親は撮ってもいいんだと
一人納得し スマホを胸ポケットに仕舞うと雲梯をクリアした樹が
俺の裾を握り 少し不安そうな表情で見上げていた

「……パパ 怒ってる?」

「え?」

「ぼくが うんていやめなかったから 怒っちゃった?」

眉を下げて困り顔の樹に しまったと後悔する
雲梯を続けた事によって 俺が怒ってると思っているようだ
何故ダメだったの理由が邪すぎて この子には説明できやしないから
怒っていると思われても当然か……寧ろ理解してた方が怖いと
咄嗟に嘘の説明を並べた

「いや…棒が少し錆びてる部分があってね
  それを触ったら 危ないと思ったんだ」

始めからそう言えばよかったなと謝れば 別にいいよと首を振り
こっちこそ 嫌いになるなんて言ってごめんねと謝る樹
本当の理由とは違うものだから 若干申し訳なくなって
その手を握り 明るい声で次の遊具へと誘った

ーーーーーーーーーー


「あれ?」

「間違っちゃった!」

「ん?」

「こっちも!」

「なんで〜?」

パタパタと走り回って あっちに行ったり
こっちに行ったりしている樹は 只今『迷路』を攻略中だ
何度も行き止まりにあう度に 声を上げてるのが
離れていてもばっちり聞こえる 俺を4回も追い越していき
5回目でようやく気付いて 立ち止まった樹は
だいぶ息を切らせながら 指を差してきた

「…さっきから パパばっかり見る!!」

「ん? そうか?」

そりゃあ 同じ所をぐるぐる回ってるからな

「うーん……何でかな?」

「ふふ 何でだろうね」

どの道も行ったけど行き止まりだったと教えてくれては
道がなくなっちゃったのかもとか言い出したので
とうとう我慢できなくなり 噴き出してしまった

「もう! 笑ってないで手伝ってよ」

「ごめん ごめん」

ムスッとした表情で 見上げてくる樹に そろそろいいかと
ヒントを与える

「パパのこと 見てごらん」

「パパを?」

「うん」

「……何もないよ?」

「もっとよく見たら わかるよ」

きょとんと首を傾げながらも 出したヒントに従い
俺をまじまじと見つめてくる
そんなに見つめられると照れるなぁと言いながら
一歩後ろに下がると 自分で言ったくせにと口を尖らせるだけで
まだ気付いてない様子に もう一歩下がると あっ と声を漏らした

「あれ!? 道がある!」

「やっと 気付いたか」

この迷路の通路は 大人3人くらいが横並びでも歩ける広さだが
俺が今いる通路は通常の半分程の幅しかなく
その通路も角っこにあるせいで 目立たなくなっていた
そのため 大人がその場所に立つと 夢中になってる子供は
その通路には気付かない様になっているんだと
迷路の入り口の看板に書いてあったので 半信半疑でやってみたが
本当に気づかないとは 中々面白いものが見れた

「う〜 隠してたなんてひどい」

「ごめん ごめん 夢中になってる樹が面白くてさ」

膨れっ面の樹の頭を撫でて 迷路の先へ進む
通路の角を曲がれば すぐに見えた出口に やっとゴールできると
大きく息を吐いた樹は 嬉しそうに出口まで駆けて行った

随分と走り回っていたから 疲れただろうと 近くのベンチに腰掛ける
そうして休憩した後は 『ジャングルジム』や 『長い滑り台』
他の遊具もクリアしていき とうとう 最後のアスレチック
一番巨大な遊具『巨大なお城』へと辿り着いた
巨大なアスレチックを見上げては おっきいねーとはしゃぐ樹に
頂上に登ると 公園全体が見渡せる事を教えると
早く見たいのだろう 急げーって叫びながら 階段を駆け上がって行く

階段を上ると 橋を渡った先にある網を張られた足場を渡る
樹は高い所が苦手だから 心配になり大丈夫かと声を掛ける
地面が見える為 多少怖がりながらも ゆっくりと進んでいく樹
一応 落ちる心配はないので 多少は平気なのだろう
段差や梯子を上っていくと 次の遊具が眼に映り
遊具の手前で止まってしまった子に声を掛けると 怖いと小さく呟いた

(んー これは 流石に無理かな……)

丸太の吊り橋に 樹は渡れないと言って首を振る
さっきの網とは違い 鎖で吊るされた丸太が揺れ 隙間もかなり大きい
一歩間違えば 落ちる恐れもある
高さもそれなりにあるので 子どもの樹にしたら相当怖い筈だ
俺が樹を抱いて渡れば簡単だが それだと意味がない
して欲しいと言われたらしてやるが 俺から言うつもりはなく
どうするかと見ていると 樹が俺を呼んだ
やっぱり抱っこかと思い 少し屈むと 先に行って欲しいと言われる

「パパが前にいたら ぼく怖くないから」

「……わかった」

樹の言葉が脳内でリピートされる
「大好きなパパがいてくれたら 何があっても怖くないし
  パパさえいれば何にもいらない」(言ってない)と言う樹に
俺の心は踊っていた まさか あの怖がりの樹がなぁ……
直接俺に頼らない方法を選ぶとは
こんなに小さくても ちゃんと成長してるんだと 実感し嬉しくなる

揺れる丸太に震えながらも ゆっくりと 少しずつ足を進めていく
ギシギシと音が鳴る丸太は 落とそうとするかの様に左右に揺れる
それでも何とかバランスを取り 止まったり 進んだりを
何度も繰り返していく内に だいぶ進むことが出来た
あと少しの所で 足を止め 目を潤ませながら俺を見てくる
……怖いのだろう もう泣く寸前だ
樹にそんな顔されると 俺までまで泣きそうになる

「……パパっ…」

「大丈夫だよ おいで」

頑張れとは言わない もう既に頑張っているから
俺の気持ちが伝わったのか 樹は口を引き結び 再び足を動かした
残り4歩……3………2…
最後の丸太を飛び越え 俺の胸に飛び込む樹を力いっぱい 抱き締める

「樹 よく頑張った!」

「うぅ〜 怖かったよ…」

ぐすんと鼻を啜る樹の髪をくしゃくしゃに撫でる
頑張ったなと何度も言って背中も摩ってやる
そうしてると落ち着いてきたのか
ゆっくりと俺から離れた樹が 段々笑顔になりながら話す

「ぼく かんばったよ」

「あぁ 頑張ったな」

「すごい? えらい?」

「あぁ すごいし偉いよ」


「…パパ うれしい?」

「あぁ…ものすっごく 嬉しいよ!」

とことん親馬鹿だと 自覚しているが
それも仕方ない こんなにもの樹ことを 愛しているのだから
ぎゅうぎゅうと抱き締めては 何度も褒める
すごいなや偉いな から次第に可愛いだの 天使だの
流石俺の子だなとズレてきた辺りで 見知らぬ声がした

「…あの〜そろそろ 道を開けてもらってもいいですか……」

「…へ……?」

丸太の吊り橋の上に立つ親子がそう言ってきた
後ろにも 何人か親子がいて こちらの様子を伺っている

「後ろつっかえてるんで」

「すっすみません!」

慌てて 道を開け樹を抱いたまま隅っこに避けると
俺達が退くのを待っていたであろう親子が 次々と通っていく

(……夢中で気付かなかったとは言え かなり恥ずかしいな……)

叫びたい気持ちを抑え 頭を抱える
うわー うわーと頭ん中で繰り返していると
最初に声を掛けてきた親が クスクス笑いながら話しかけてきた

「この間私の主人も あなたと同じ風に娘を褒めてたんですよ
  やっぱり男性のそういう所って 共通なんですね〜」

これは 褒められているのか…それとも馬鹿にされているのだろうか
どう受け取ればいいのか 迷っている俺に気づいては
良い意味で言ってたんですよと微笑んだ女性ち
通路を塞いでいたことを もう一度軽くお詫びし
自分の親馬鹿振りに 少し自粛しますと話せば
女性がとんでもないと首を振った

「私って普段から 褒めるよりも叱ってる事の方が多いんですよね
でもそのぶん 主人がいーっぱい褒めてくれると
私に叱られたことなんて 娘はケロっと忘れちゃうんです
だから お父さんのそういう部分は すごく大事なんですよ!」

いきなりの熱弁トークに らしくもなく照れていると
ぽんぽんと肩を叩かれ 抱いている樹へ視線を移す

「パパ てっぺんに行こうよ」

「そうだな」

女性に会釈をして その先の階段を上って行けば
屋根のある頂上へ着き 樹を腕から降ろし
手すりに凭れて 視界いっぱいに広がる公園を見渡すと
全アスレチックを達成した実際が湧いてくる
あのアスレチックは簡単だったとか あっちのは難しかったと
自分の手のひらよりも 小さく見える遊具を指しては
一緒に感想を言い合った
高い所が苦手な樹も 忘れたかの様にこの眺めを楽しんでいる


「高いねー! すごいねー!」

「怖くないのか?」

「うん! パパがいるから平気」

「そっか」

落ち着け俺 抑えるんだ さっき自粛するって反省したばかりだろ
抱き締めるのは 後でも出来る 樹に触れようとして動かした手を
どうにか引っ込ませ景色を眺めた ゆっくりと落ちていく陽に
そろそろ帰ろうかと声を掛けて 階段へ向かう
こんなに遊んだのは久しぶりだから 樹も疲れただろう

「ねぇ パパ」

「んー?」

「…帰りは抱っこしてね」

「もちろんだよ」

最後にクリアした 丸太橋の前に立つと 思い切り手足に力を入れ
絶対に離すものかとしがみついてきた樹に 口元が緩んだ


公園を後にした俺たちは 真赤な夕日を背にのんびりと歩いていた

「アスレチック 楽しかったね」

「そうだな また来よっか」

「うん!」

繋いだ手を前後に振りながら歩く樹に 今日は公園に遊びに来て
良かったと満足する…夕飯は何しようか考えた所で
ふと 何か忘れているような気がして首を傾げた

「「あ」」

思い出して足を止め 二人で顔を合わせる

「「……鉄棒忘れてた」」

お互いに ぽかんと口を開けたまま見つめ合い
徐々に笑いが込み上げてくる
俺は 空いてる方の手で顔を覆い 地面にしゃがみ込んだ
それが 面白いのか 樹の笑い声が段々大きくなっていく

「あはははっ」

「…笑い事じゃないよ……ははっ もう
  あー 何のために公園に行ったんだか……」

すっかり忘れていた事を樹に謝り
また今度 鉄棒の練習をしようなと指切りした
樹はまったく気にしてないのか にこにこと笑い
今日のことを振り返り 楽しかったよと話しながら
俺の肩へ手を乗せては 耳元に顔を近づけて囁かれる

「遊んでくれてありがとうパパ…大好きだよ」

「っ……」

照れてるのだろう 言い逃げして走り去っていく樹の後ろ姿を
俺は固まったまま見つめる……久々の休日
身体を動かす遊びで疲れたけれど 心は癒されまくっていた

(帰ってからも癒されよう……いや 今すぐだな)

そう決心した俺は 小さくなっていく背中を 全力で追いかけた


その後 2.5秒で追いついた俺は
樹を力いっぱい抱き締めて頬擦りしたのだった

(パパも 大好きだよー!!)

(うぅ…苦しい)




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