それでもご飯 〜パート2〜






それでもご飯 C 〜2歳〜


陽射しの反射で青白く輝いているのは 一面真っ白の雪景色
一夜で ガラリと変わった公園を 腕の中からきょろきょろと
辺りを見渡していた いーくんがもぞもぞ動き出したのを合図に
雪が積もった地面へ降ろせば 膝下まですっぽりと隠れた
降ろした場所で突っ立ったまま動かないでいる いーくん
その視線の先には 雪合戦で遊んでいる数人の男の子がいた
じーっと見つめている様子に いーくんも加わりたいのか尋ねれば
眉根を寄せながら 否定の言葉を返される
一人の男の子が 周りから集中砲火を浴びていても
楽しそうに笑っているのが 不思議なのだろうか
クエスチョンマークを 沢山浮かべているような表情で
首を傾げている いーくんへ あぁやって遊んでいるんだと説明すると
巻き込まれるかもしれないと幼いながら判断したのか その子達から
だいぶ離れた場所を指して あっちへ行こうと誘われる

「いーくん パパとおてて繋ご」

「なーい」

「…ちぇ」

普段は いーくんの方から繋いでくれるのに 今日はどうしたことか…
手持ち無沙汰な手をぷらぷらさせ「寂しいなぁ…」と呟けば
仕方ないと言う風に手を繋いではくれたが それも一瞬のことで
すぐに離されてしまい 俺への扱いが雑過ぎることに胸の内で嘆いた
おいっちにと前を歩く いーくんは 雪に空いていく穴が面白いのか
ズボズボ穴を空けては 腕を突っ込んで くすくす笑っている
むぎゅっ と雪を踏みしめ 足を引き抜いた途端 後ろへすっ転び
雪に沈んでしまった いーくんにすぐさま駆け寄って覗き込んだ
泣いてしまうかと思いきや 転んだのが面白かったのか
にこにこと笑みを浮かべている様子にホッとしたのも束の間
突然スイッチが付けられたかのように きゃあきゃあ笑い声を上げ
手足をバタバタと動かすものだから その衝撃で周りの雪が内側に
落ちてしまい 少しずつ埋もれていく息子を 慌てて抱き起こした
(…いきなり 何をしでかすんだこの子はっ)
本人にそのつもりはないだろうが 自らを生き埋めにするなどと
予想だにしない行動には 肝が冷える


「ちーちゃー!」

「あははっ …そりゃあ 冷たいよ」

まだ はっきり冷たいと話せない いーくんは「ちーちゃー」って言う
襟から侵入してきた雪に 冷たがる様を見て柔く笑いながら
ジャケットの前を広げて 中の雪を払い落とした
俺の頬へ雪をくっつけては「ちーちゃい?」と聞いてくるのが可愛い
そう…非常に可愛いのだけれど ぶるりと震える俺を面白がって
マフラーの隙間から次々と雪を詰め込むのはやめてくれ

「だーめ 冷たいから」

「む〜!」

「…む〜 じゃないだろ」

もう雪を入れさせてたまるかと 防御の構えを取れば
面白くなさそうに口を尖らせ雪を弄りだした
素手なんかで触って冷たいだろうに
手袋を差し出せば いらないと首を振られる
家を出る時にも 手袋をするかしないかで揉めた挙句
マフラーも嫌がられてしまい 元気過ぎる風の子には困ったものだ

掻き集めた雪を にぎにぎと丸めているものの ポロポロ崩れ
上手く雪玉を作れていない息子へ 俺が作った雪玉を渡すと
強く握られたそれは あっけなく潰れてしまった

「あ〜ぁ」

「潰れちゃったな」

もう一度丸めた雪を渡すと また同じように握り潰しては
あ〜ぁ と残念そうに声を上げる その割には笑みを浮かべいるので
残念がっているというよりは 潰して遊んでいる感じだ
高く積み上げた 積み木を崩すのと似て 雪玉も壊したりするのが
面白いのだろうか? せっせと俺が作っていく雪玉を
破壊神の如く潰しにかかる いーくんに待ったをかける

「ほら 絵本で見たことあるやつだぞ〜」

何だったかな? わかるな?
大きい雪玉の上に小さな雪玉を乗せた物を見せてやれば
「あい!」と元気よく手を挙げた

「うきまるま!」

「おぉ〜 覚えてた」

正解です と頭を軽く撫でて 雪だるまを地面へ置く
目鼻がないから小石や落ち葉でも探して つけてあげようか
しかし そんな考えも虚しく 俺が作った雪だるまは
いーくんの手によって 無残にも破壊されてしまった

「あ〜ぁ」

(…こいつめ)

一瞬の腹立たしさを感じはしたが ころころと
無邪気に笑う我が子を見れば そんな気持ちも吹き飛び
むしろ壊してくださいと 破壊専用の雪だるまを
大量生産し ずらーっと並べていく


「ぱぱ てー」

「んー…手? こうか?」

いーくんの手を真似て両手で器を作れば そこへ雪が盛られていく
かき氷みたいな雪の山に「美味しそうだね」って感想を述べれば
俺の評価に満足したのか 可愛らしい笑顔を向けられる
それに乗っかり シロップはイチゴにする? それともメロン?
ブルーハワイにしようかな〜 と話せば 目をきょとんとさせるので
シロップをかけたら美味しいぞと付け足すと 首をぶんぶん振り
俺の手に盛られた雪を びしっと指差した

「まんま!」

「……白米だったのか」

まさかの答えで 苦く笑っている俺に対し
おかわりいっぱいあるからね と両手を広げる いーくんは
それは それは 嬉しそうに笑みを浮かべていた


ーーーーーーーーーー


それでもご飯 D 〜2歳半〜


目をぎゅーっと瞑り おやつのヨーグルトを食べる いーくん
生まれて初めて食べるヨーグルトは いーくんにとって
衝撃的な味だったらしい ふるふると首を振っているので
無理しなくてもいいんだよと言ってみても
頑なに食べると言い張り スプーンを口へ運んでいた
一口食べる度に目をしぱしぱさせ 酸っぱそうな顔をするものだから
笑いを堪えきれない俺は 肩を震わせながら眺めていた

「ふはっ…いーくん 美味しいの?」

「うん おいしー」

その割には顰めっ面な息子へ 他のおやつもあるよと
ビスケットをあげれば いつものように美味しそうに食べ
幸せそうな表情に やはりこうでなくてはと頷く
無理して食べていたのだろうとヨーグルトを回収したが
必死に手を伸ばして求めるのだから よくわからない
見てる側からすると 苦手な物を無理強いしてるようで
気は進まないが 本人が食べたいと言うのだから良しとしよう
酸っぱい味が癖になってるのか それをわかっていても尚食べ続け
ヨーグルトの酸っぱさに口を窄めては 頬を抑えたりと
面白可愛い行動を連発する いーくんに何度も吹き出した
にしても…そんなに このヨーグルトは美味しいのだろうか?
子ども用のは甘過ぎるし 色々入って糖分も多いからと普通の
ヨーグルトにしたんだが いーくんが食べているのを見ていると
ここ最近 ヨーグルトなんて食べていないから味が気になってくる

「パパにも ちょーだい」

「…やー!」

ヨーグルトのカップを掴んでは 絶対にあげるもんかと
全くもって足りない目力で こちらを睨みつける いーくんへ
「一口くらいいいだろ」とふざけて口を近づけたら
手にしたスプーンで猛攻撃を繰り出され 慌てて距離を取った
いくらプラスチック製のスプーンでも それで殴られたら痛い
ごめん ごめん と手を広げ いらないアピールをして見せ
油断している いーくんの手から ひょい とスプーンを奪い取った
口の中に広がるただのヨーグルトの味に普通じゃないかと言い
スプーンを返せば 顔をくしゃりと歪ませていた息子に目を張った


「びえぇええん!!」

「うわ! えーっと…ごめん いーくん!
そんなに泣かなくても…ヨーグルトまだ残ってるだろ?」

わぁわぁ泣きだした いーくんを必死に宥めようとするも
たった一口とは言え 俺にヨーグルトを食べられたのが
余程ショックだったのか 一向に泣き止まないどころか
どんどん酷くなる泣き声に 手の打ちようがなくなった俺は
冷蔵庫へと猛ダッシュで走り 未開封のヨーグルトを
猛烈に泣きじゃくっている息子の目の前に置いた
新しいヨーグルトを目にした途端 あんなに泣いていたのが
嘘みたいに ピタリと泣き止んだ いーくんへ
遠慮がちに「…食べる?」と聞けば こくりと頷き
口をもごもごさせながら 何回か鼻を啜っている様子に
あんなにも泣かせてしまったことに反省しつつ 元はと言えば
勝手に食べた俺が悪いとは言え 一口くらいくれなかった
いーくんも悪いんだぞ とか思っている俺は大人気ないのだろう…
残っていたヨーグルトを 綺麗に食べきってから
新しいのを食べ始めた いーくんだが 相変わらず食べるたびに
変な表情になっているのが可愛くって やっぱり吹き出してしまった




[ 21/23 ]

[] []
[目次]