交流






玄関前に集合している 数十名の子ども達
彼らは皆 帝丹小学校に在校する1年B組の生徒だ
次に始まる授業の話題が飛び交う中 手を打つ音に
生徒達の視線が女性教師へと注がれる

「はい みんな静かにしましょう
  あと数分もしたら バスが到着します
  そんなにお喋りしていたら 他校の生徒に笑われますよ」

あちこちへと乱れている生徒達に 整列するよう呼びかけ
これから行われる授業内容を はきはきとした声で
説明しているのは 1年B組担任の小林澄子先生だ
退職した 前任の戸矢先生に代わり 赴任当初は
厳しい先生だと児童達からは嫌われていたが
素の性格で接して以来 今ではどの生徒からも好かれている
人気者の教師だ

「彼女 やけに張り切ってるわね」

「そうか?」

冷めた口調で話す哀に どちらかと言えば
緊張してるように見えると話すコナン
それもそのはず 本日 もうすぐ行われる授業は
他校交流と言われ 他校に在学する生徒と一緒に遊んだり
勉強をして 子ども達の交流を深めようと考えられた授業の一環だ
他校交流を行うのが初めての小林先生は 生徒達が
仲良くできるか 自身が上手く授業を進められるかで とても
不安になっており 何度も授業内容や注意事項を説明しているのだ
同じ説明を聞き飽きた児童達の返事には やる気がなく
その態度が余計 小林先生の不安を煽る羽目になっていた

「でも 楽しみだね!
  他校の子と一緒に 授業を受けるの初めてだもん」

「そうですよね 僕もドキドキしてるんです!」

歩美と光彦が授業を楽しみにしている中
給食が楽しみな元太は 早くお弁当が食べたいと話していた
給食も他校の生徒と一緒に食べることになっているため
今日は各自 お弁当を持参しているのだ
お母さんにキャラ弁を作ってもらったと自慢する歩美が
お弁当のおかずを 皆で取り替えっこしようと話した所で
校門から入って来たバスが見え 生徒達がわっと騒ぎだした
必死に宥めようとする小林先生の姿に
コナンは大変だなと同情の眼差しを送りつつ
少年探偵団へ 交流する学校はどこだったか聞いた

「この辺だと やっぱり米花小学校か?」

「…お前 先生の話しちゃんと聞いとけよな」

「そうですよ まったく…
  小林先生が江古田って言ってたじゃないですか」

「…へ?」

(……江古田っていや)

バスから降りて来た生徒の中に
あの特徴的な髪と肌の色を見つけたコナンは
やっぱりそうだと手を振り その子の名前を呼んだ

「…あっ コナンくんだー!」

コナンに気づくや否や 顔を綻ばせ駆け足で寄って来る男の子
久しぶりだね と仲良く挨拶を交わす二人に
探偵団の面々から知り合い? と尋ねられたコナンは
お前らもよく知ってる人の子どもさ と頷く
それに いち早く気づいた歩美が声を張り上げた

「安室さんでしょ!」

「正解!…安室 樹くん って言うんだ」

各々が自己紹介をする中
安室という人物を知らない哀は コナンにそっと耳打ちした

「誰よ 安室さんって」

「ん? あぁ…ポアロの店員で
  おっちゃんに弟子入りした探偵だよ」

言ってなかったかと確認するコナンに
そういえば そんな話を聞いていたかと思い出した彼女は
樹から差し出された手に 微笑を浮かべながら握手を交わした
教師も挨拶がてら 簡単に予定の確認を行っては
生徒達へ 体育館に移動するよう話し
1年B組の生徒が ぞろぞろと自分の下駄箱に向かう
江古田の生徒は担任に引率されながら 玄関広間で靴を履き替えた
似ているようで やはり違いがある校舎内に目移りし
壁に飾られた絵やポスターを指して 小声で談笑する児童は
これから始まる授業に胸を弾ませ 体育館へと向かった


最初の4時間目の授業が作品紹介で そのあとのお昼が終われば
5時間目には みんなで学校の探検をする
これが 今日組まれている予定だった 作品紹介とは
個人で作った作品や グループで作った作品を紹介し合い 遊ぶ側
紹介する側と 互いに15分ずつ時間を使って作品遊びが行われる
くじ引きで決め 最初に紹介するのは帝丹の生徒になり
小さい物から大きい物まで 色々ある工作は
生徒がこの日のために 自分達で考え一生懸命作った物だ
児童の笑い声と 上履きが擦れる独特な音が体育館に響き渡る
初対面でも すぐ仲良くなれるのは子ども同士だからだろうか
分け隔てなく遊ぶ様子は 大人では見られない光景だ
好調なスタートに 教師の面々も安堵の笑みを浮かべていた
遊ぶ側の樹は 始まった途端 コナン達の元へ駆け寄り
彼らの作品に目を輝かせては 遊んでもいーい? と声をかける
一番に遊びに来てくれた樹に 気を良くした元太と光彦は
喜んで受け入れ 自分達が作った作品の説明をした
二人の作品は 段ボールや厚紙を使用して作られた回転寿司
丸く切り取られた段ボールが台になり その上に紙皿とネタが
乗っている 名前の通りしっかり回転するのがこの作品の見せ所
簡単な説明を終えた光彦が 自慢気にスイッチを押すと
ゆっくり回転する台を見た樹は すごい すごい! と拍手を送った

「すごいだろ オレと光彦で考えたんだぜ!」

「殆どボクが作って 元太君は見ていただけですけどね…」

呆れた表情で見つめてくる光彦に対し 頭をぽりぽり掻いては
細かい作業は苦手なんだと ぼやく元太にみんながクスクス笑う
手書きのメニューの中から 海老を注文した樹は
隠れて作る二人に 首を傾げながら流れてくるのを待った
目の前に流れてきたネタを取り いただきますと遊ぶ樹へ
光彦が待ったをかける ただ 回転するだけでは
面白みに欠けるので 当てっこゲームがあるのだと話した

「2つの寿司ネタの内 どちらか一方にワサビが入っているんです
  樹くんは ワサビが入っていない方の 寿司ネタを選んでください」

真剣な表情で二つの寿司を見比べ 片方を指すと
それでいいんですか? と光彦に言われドキリとした樹は
じゃあこっちにする ともう一方の寿司を指した
そうすると今度は 元太にまで光彦と同じことを言われてしまい
選べなくて困っている樹に 悪い顔をした光彦が
ポケットから取り出した 市販で売られているよりも
かなり大きいサイズの ワサビのチューブを見せつけた

「ふっふっふっ…ハズレを引いたら
  この激辛ワサビを食べてもらいます!」

「えぇー!」

イヤイヤと首を振る樹に容赦なく 選んでくださいと迫る光彦
その気迫に押されてしまい 渋々選んだ寿司ネタをめくると
厚紙のシャリには 黄緑色のペンでワサビが描かれていた
ハズレを引いたショックと ワサビを食べたくない思いから
逃走を試みた樹だったが 背後から元太に捕らえられ
逃げられない事を悟ると 甲高い声できゃあきゃあ叫んだ
その間にも 光彦は大きなチューブを片手に詰め寄ってくる
ワサビのフタがくるくると回されるのを見て絶望し
観念して食べるしかないのかと 諦めた樹は
目の前で ポンっと開けられた容器に覚悟を決めた


「……へ?」

チューブのフタに繋げられた白い糸
その糸へぶら下がる紙には『ウソ』と書かれており
マヌケにも ぽかんと口を開けていた樹は
ようやくその意味を理解し へにゃりと表情を崩した
樹が見せた期待以上の反応に 少年探偵団から笑いが起き
樹も一緒になって けらけら笑う
本当にワサビを食べなくてはいけないと思っていた樹は
騙したことに怒るよりも 冗談だったことにホッとし
今度こそは当たりを引いてみせると もう一度チャレンジしたが
またもや ワサビを引き当ててしまい みんなで大笑いしていた
そうして 回転寿司の工作で遊び終わると
歩美に腕を引かれ 次は女の子たちの作品で遊ぶことになり
隣のスペースに置かれている可愛らしい人形を手にした
台に刺さった棒に付けられた 二体のバレリーナの人形
淡い生地で作られた短いドレスは カラーフィルムやビーズが
散りばめられ キラキラと輝きを放っている その台の横に
取り付けられた取っ手を回すと 人形もくるくると回り出した

「わぁ〜 かわいいね」

「ふふふ 哀ちゃんと一緒に作ったんだよ」

くるくると回る可愛らしい人形を じーっと眺め
ずっと見ていても 飽きのこないデザインに微笑む
よく見ると この二体の人形は作った人物にとてもよく似ていた

「このお人形 歩美ちゃんと哀ちゃんにそっくりだね?」

「そうなの 自分に似せて作ったから
  気づいてもらえて嬉しい! ね? 哀ちゃん」

「そうね 観察眼はいいみたい」

女の子二人に喜んでもらえて なんだか嬉しくなる樹
次はコナンの作品で遊ぶのに 隣へ移動すると
何も置かれていないのを見て きょとんと目を丸くさせる

「…コナンくんのはないの?」

「いや…あるにはあるんだけど……」

気まずそうに目を逸らしたコナンは 後ろ手に隠していた作品を
樹に渡した 手渡された物は見たことのない形で
棒から棒へ太いゴムが伸びていて その真ん中には
丸型の 薄っぺらい布がセロハンテープで止められていた
似ている形で言えば 鹿の角が一番近いと思われるが
やっぱりどこか違うそれに 使い方がわからないでいる樹へ
歩美が名称と使い方を丁寧に説明してくた
どうやらコナンが作ったのは パチンコと言われる道具だそうで
壁に貼られた的に向けて マジックテープが付いた玉を飛ばし
的に表示された点数を競って遊べるらしい 初めて見る樹にとって
面白そうな工作でも 周りにとってはそうでもないみたく
光彦達が作った回転寿司と比べ 小さなパチンコは地味に映り
あまりいい評価を 得られていないようだった
そのこともあって コナンは作品を見せるのを躊躇していたのだ

「コナンのやつ 手抜いた工作しか作らねーからな」

「…しゃあねーだろ こういうの苦手なんだからよ」

元太に指摘されたコナンは 些か拗ねた口調で言い返していたが
樹から遊んでもいいか尋ねられると ころりと表情を変えた
ゴムに玉を添え思い切り後ろへ引っ張り 手を離すと
勢いよく飛んだ玉は 的を大きく外れて壁に当たった
樹は床を転がる玉を拾い 失敗しちゃったと舌を出して笑う

「お前 ヘタクソだな」

「ダメですよ元太君 そんな言い方しちゃ
  貸してください ボクがお手本を見せてあげます」

「歩美にもさせてー」

(…お前らが遊んでどうすんだよ)

紹介する側も一緒になって遊ぶ様子に コナンは呆れていた
けれど 人の作品を手抜きだと 文句を言っていたのにも関わらず
こうして 夢中で遊んでもらえるのは気分がいい
きゃっきゃと 楽しそうにはしゃぐ彼らだっだが 時間を知らせる
タイマーが鳴ったことで それぞれの持ち場に戻っていく


「ぼくの作品も 見にきてね」

「うん! 片付けたらすぐに行くよ」

少しのお別れでも 惜しむかのように手を振る樹
そんな彼に柔く微笑み コナンも同じようにして振り返した
作品を片付けながら 樹のことを弟ができたみたいだと喜ぶ歩美
それは元太や光彦も同じだったようで 彼の話題で持ちきりだった

「あの子 貴女より背が低かったものね
  だから余計に 弟だと思うんじゃない?」

「うん そうかもしれない! …大きくなったら
  樹くんも 安室さんみたいにイケメンさんになるのかな?」

さぁ…どうかしら と微笑み 談笑する哀と歩美
コナンを除いた少年二人は またライバルが増えるのではと
はらはらした気持ちで 女の子の会話に耳を傾けていた
片付けが終わり 今度は遊ぶ側になった少年探偵団は
さっそく樹の所へ行き 彼が紹介する作品を目にする
段ボール素材で作られたトラックの中には 牛乳パックの物と
ペットボトルの車が一台ずつ入れられており
それを取り出した樹は タイヤを床へつけた状態で車をバックさせる
手を放された車は 勢いよく前へ進み
スピード感溢れる車に 少年探偵団から歓声が上がった

「プルバック式ですね!」

「すげーな ひとりで作ったのか?」

「ううん 友だちと一緒に作ったんだよ」

だけど その友だちは風邪を引いてしまい
今日は来られなくなったんだと 淋しそうにしている樹へ
歩美が友だちの名前を聞き みんなでその子に手紙を書こうと話した
彼女の 思いがけない提案に喜んだ樹は 笑顔でお礼を伝えた

走らせるのがこの作品の基本だが 他にも違う遊びができるんだと
トラックの後部扉を倒し 坂の所から車を入れるのを説明する
一見簡単に思えるかもしれないが 車がギリギリ入る程度の幅は
正確な位置と 車を真っ直ぐ走行させないと上手いこと入らないのだ
順番にチャレンジしていくも コースを逸れたり
坂から落ちたりなどで中々成功せず コナンもやってみたが
惜しくも 坂を登りきる所でぶつかり 呆気なく落ちてしまった
少々悔しく思いながら 次の人へ車を渡し
受け取った哀は あまり気乗りではなかったが
遊んでやらないのも可哀想かと 適当に走らせる
しかし意外にも 適当に走らせた車はトラックの中へ
すっぽりと収まり 哀はパチクリと目を瞬かせた
歩美達がこぞって褒めちぎる中 偶々だと苦笑する哀へ
トラックの運転席の蓋を開け カードの束を取り出した樹は
この中から一枚引いて と差し出した
言われた通り カードを一枚引き 表に返せば
車のイラストと その名前が描かれていた

「コスモスポーツ…上手に描けてるわね 車が好きなの?」

「うん! 車の中でもスーパーカーが1番好き!
  パパの車はスポーツカーでね RX-7に乗ってるんだよ」

「そう」

もらっていいのかしら? と尋ねる哀に 笑顔で頷いた樹は
車をトラックに入れられた人へ あげる物だと話した
それを聞いた元太達は 自分達もカードが欲しいと
何度も挑戦しては やっと車を入れることができ
三人は順番にカードを引いていった

「フェアレディZだって なんか 可愛い〜」

「ボクはハチロクを引きました! 赤いボディがかっこいいです」

「オレのはフェラーリだってよ これ外国の車だよな?」

みんなに誘われ コナンも何度か挑戦していたが
一向に入らない車にぶすくれて とうとう諦めてしまった
そうこうして みんなが遊んでいる間に時間は経ち
またタイマーが鳴ったことで 最後の片付けに取り掛かる
手洗いうがいをしてから お弁当の用意をするよう 先生に言われ
児童達は今日一番 楽しみにしていたお昼の時間に騒めき出す
帝丹の生徒は作品を移動させるのに 一旦教室へ戻り
お弁当と敷物を持って来ては みんなでお弁当を広げる
手を合わせた先生に続いて いただきますの合唱が体育館に響き
お昼の時間が始まった
わいわいとお弁当を食べる中 樹は少し不満に思っていた
仲良くなったコナン達と 一緒にお弁当を食べたかったのに
結局 いつもの班ごとでグループが決められてしまい
なんだかつまらなく感じ グループの子に一言残しては
こっそりとその場を離れた


「安室君 自分の班に戻りなさい」

こっそり移動していたつもりでも 樹の目立ちやすい姿は
担任の原田先生にすぐ見つかってしまい 軽く注意を受け
しゅん とした樹だったが 素直に班の元へ戻りはせず
コナン達のいる場所へ ささーっと座り込んだ
教師を無視したとも取れる行動に コナン達は目を丸くする
普段なら聞き分けのいい筈の樹に ぱちりと瞬いた原田先生が
スタスタと近づいて行くと 周りの児童達はお喋りを止め
お箸も動かさずその様子を怖々と見ていた 目の前まで来ては
早く戻りなさい とさっきよりも強い口調で話す彼女を
樹は不満そうな表情で見上げる

「でも先生?…せっかくの他校交流なのに
  仲良くなった人と お弁当を食べられないのは つまらないよ」

「…つまらないのは分かりますけど そういう決まりなんです」

「どーしてそういう決まりなの? 先生が決めたの?
  ぼくが先生だったら みんなにもっと仲良くなって欲しいから
  自由にグループを決めさせてあげるよ 先生はそう思わないの?」

もちろん 思っているか思っていないかと言えば
原田だってそう思っている…しかし 事前に決めた取り組みでは
そういう決まりになっているのだから 守らないといけないのだ
この教師の生真面目な性格上 初めて行う授業ということもあって
そのルールを変えることは まずしない
しかし 樹の加勢をするかのように 他の児童からも
ちらほらと不満が上がり その声は次第に大きくなっていく
その間にも樹の どーして? は繰り返され
生徒の質問に答えられないでいる原田先生を見かねて
ついに 小林先生が立ち上がった

「みんな静かに! 静かにしなさい!
  わかりました…みんなの要望通りお弁当は
  好きなグループで食べましょう──ただし」

さっそく移動しようとした子や 立ち上がろうとした子ども達は
ピタリと止まって 小林先生の言葉に耳を傾ける
そんな子ども達をじっくり見渡すと 今から移動する人は
お弁当の蓋を閉めるように と先生が話し
言われた生徒達は パカパカと蓋を閉じていき
お箸も入れ物に仕舞い 次の指示を待った

「はい…では立ち上がって ゆっくり移動しましょう!」

先生が手を打つや否や 弾けるように走りだした児童達は
仲良くなった子の名前を呼んだり みんなを集めたりと
その騒がしい光景に苦笑しながら 先生は温かい目で見守る
こうなるのも想定済みで お弁当の蓋を閉めさせたわけだが
一方彼女 原田先生は 走り回る児童達に慌てふためくも
何も言えずに オロオロとしているだけだった
欲求を前にした子どもには 何を言っても意味がない
それが人同士の場合 尚更大人しくなんかできっこないのだ
成長するにつれ そのことを理解し尚且つ 決められたルールに
不満があっても 黙って受け入れなくてはならない日が
必ずやって来る…それまでは 今日みたいな可愛らしい要望にも
教師の私達は 柔軟に応えてあげようではないか
小林先生の話しに共感した彼女は そうですね と静かに笑った

少年探偵団の子達とお弁当を一緒に食べながら
樹は先生を困らせたかも と一人心配していた

「別にいいんじゃない? みんなもそう思ってたみたいだし
  それに 自分の意見を言うのは 悪いことでもないもの」

つらつらと話す哀を
コナンは意外な物を見るかのように見つめていた
哀の言葉に自信がついた樹は お礼を言って
自分の唐揚げを箸で摘み 哀のお弁当箱へ入れる

「この からあげ パパが昨日から漬けてくれた
  おいしいやつなんだ だから哀ちゃんにあげる」

「あら そう…じゃあお返しに玉子焼きをあげるわ」

二人のやり取りを見ていた光彦は 自分も哀の玉子焼きが欲しいと
エビフライを交換に出し 玉子をゲットできた喜びを噛み締めていた
歩美や元太も それぞれみんなとおかずを交換し合い
コナンとも何か交換しようとした樹は お弁当を覗いた

「あ コナンくんのプチトマト黄色だね」

「うん 蘭姉ちゃんが入れてくれたんだ」
(まぁ…赤いのより安かったからだけど)

物欲しそうに見ている樹へ あげようか? と言えば パッと笑顔になり
じゃあ ぼくのと交換だね と赤いプチトマトを口元へ持ってきた

「あーん」

「えっ あ あーん…」

まさか 食べさせられるとは思っていなかったコナンは
少し恥ずかしくなりながらも 口を開ける
首を傾げながら おいしい? と聞いてくる彼へぎこちなく頷けば
ぱかりと可愛い口が開き その中へプチトマトを放り込んでやった
満足そうに微笑んでは感想を述べる樹に
歩美達が 弟みたいだと言っていたのもわかる気がする
コナンの実年齢を考えれば 哀を除いて全員が
弟 又は妹みたいなものなのたが 楽しそうにはしゃいでは
ちっとも落ち着いてお弁当を食べてくれない彼らに
フッと笑い 手のかかる弟妹だと目を細める
このあとのお昼休みに 何をして遊ぼうかと考えるみんなへ
そこはやっぱりオレ達お決まりのサッカーだろ と案を出した


ーーーーーーーーーー


「え〜 もう 帰っちゃうんだ」

「…寂しくなりますね」

「なんか あっという間だったよな」

楽しかったのも束の間
別れの時間になると みんなは目に見えてしょんぼりしていた
歩美達以外にも 別れを惜しむ児童は沢山いて
また遊ぼうね とあちこちでその約束が交わされる
次々とバスに乗っていく中 列から離れた樹は
ガサガサと 工作が入っている袋を鳴らすと
コナンの元へ駆け寄り その手に一枚のカードを握らせた
きょとんとしているコナンへ 残念賞だと囁き
白い歯を見せて笑う彼は 人差し指を口元に当てた

「みんなには 内緒だよ?」

こっそりと話しているつもりでも
すぐ隣に立っている哀には バッチリ聞こえているので
なんとも言えないのだが コナンは ありがとう と微笑む
先生の声に 呼ばれてるよ と小さな背を押してやれば
ぴょこぴょこと走って バスに乗車する樹の後ろ姿を見送り
たった今 彼がくれたカードを表に返した

「あら…残念賞じゃなくて 大当たりじゃない」

横から覗いていた哀が 白いRX-7のイラストにそう呟く
そのイラストを見つめていたコナンの口からは
意外だな の言葉が無意識に飛び出していた

「意外って…その絵のこと?」

「いや…お前が初対面の人と ここまで話すの見たことないからさ
  クラスメイトでも 歩美達以外とはあんまり話さねーのに
  今日は 樹くんに対して 積極的に喋ってたから不思議だったんだ」

「何? …悪いわけ?」

ジロリと睨んでくる哀に
コナンはそんなんじゃねーよと苦笑した
もちろん そんなことをわかりきっている哀は
出発したバスから目を逸らさずに ぽつりと言葉を連ねる

「…あの子 吉田さんに似てるのよ 外見じゃなくて
  話し方や行動とか 無邪気な所が…そういう部分に
  自分でも気づかない内に 惹かれてたのだと思う
  だから あの子とも 自然に話せたんじゃないかしら…」

そう話す哀は どことなく儚げな笑みを浮かべながら
バスの窓から顔を出し こちらに向けて手を振る樹へ 小さく振り返す
窓から顔を出したことで 教師にこっぴどく叱られている様子に
みんなはクスクス笑い バスが見えなくなるまで その場に居続けた



学校のチャイムが鳴り 帰り支度を済ませた樹は
くぐり慣れた校門を少し歩いた所で 父親とばったり会った
おかえり と微笑む父へ抱きつき 車はどこかと辺りを見渡す

「車なら置いてきたよ たまには歩くのもいいと思ってさ」

そう言って 差し伸べてきた父の手を握り
今日のできごとを ペラペラと話した


「へぇ コナン君達に会えたのか」

「うん みんなの作品もすごかったよ!
  回転寿司とお人形と…あと ぱちんこで遊んで
  お弁当も一緒に食べたんだ 歩美ちゃんのキャラ弁がね
  ウサギさんでかわいかったの お昼休みはサッカーを
  教えてもらって… それから みんなで色鬼もしたんだよ」

「いっぱい遊べたんだなー 楽しかったか?」

「うん!」

すっごく楽しかったと話す樹は パーカーのポケットから
封筒を取り出し 父へ見せた 今日休んで来れなくなった友だちへ
少年探偵団のみんなが書いてくれた 大事な手紙だ

「そっか…翔ちゃん お休みだったのか
  じゃあ帰りに その手紙届けに行こうな」

工作はどうしたらいいか 聞かれた父は
それはまた今度渡せばいいさ と話し
繋いだ手を揺らして 息子との会話を楽しんで帰るのだった





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