水遊び






7月も後半に入り
世間では夏休みの真っ只中 どこもかしこも帰省ラッシュで
テレビでは連日 交通渋滞の様子が放送されている
車の行列に釘付けの息子は 車名を言い当てる一人遊びをしていた

「えしゅてぃま…せれな…きゅーぶ……わごんあーる」

ローテーブルに両手をつきながら ひょこひょこ跳ねる
いーくんの隣へ腰を下ろし その様子をじーっと眺めていると
俺に気づいたいーくんは 液晶画面を指して車名を教えてくれる

「あれがたんとで こっちはせれな」

「へぇー じゃあこれは?」

「しゅいふと!」

「すごい…全部合ってるぞ いーくんすごいなー! !」

得意げに微笑む我が子を さらに褒めちぎり
にこにこ笑ういーくんのふっくらした頬を両手で挟んでは
すべっすべの肌をふにふに揉んで おでこを突き合わせた
子どもの肌は何故 こんなにもすべすべで柔らかいのか
不思議でたまらない
褒め言葉は気づけば可愛いに変わり 可愛くて柔らかい
いーくんを もっと堪能しようと頬ずりしだした俺に 嫌がるどころか
喜んで 頬ずり仕返してくれるいーくんは もう天使でしかない
そろそろ暑苦しいとイヤイヤされる前に 頬ずりタイムは終了し
テレビに表示されている時間が 10時を回ったのを確認する
まだ 車を見ていたい いーくんには悪いが テレビを消して
部屋を移動し タンスにしまっていた物を取り出した

「おきがえ?」

「うん そうだよ 自分で脱げる?」

「やだー」

できないではなくて
嫌だと抜かす息子に 仕方ないなと笑って脱がしてやる
すっぽんぽんになった いーくんに 片足ずつ上げてもらい
さっき取り出した物を履かせると 履き心地が気に入らないのか
微妙な表情をする息子に これは水着なんだよと説明する

「…みじゅぎ」

「そう これを着ないと遊べないんだぞ〜」


んー…少し サイズが大きかったかな
ずれ落ちないよう 水着の紐を結び ベランダの窓の前へ連れて行けば
白いレースカーテン越しから 薄っすらと見えた物体に気づいて
なに? なに? と興味津々にカーテンを開ける

「わぁ! おさかなー!」

オレンジ色の魚で 口を開いた形状のビニールプールを目にし
はしゃいでる姿を横目に窓を開け 手を引いてベランダへ出た
ビニールプールを置いてるのに 然程狭さを感じさせないベランダは
こういった用途も考えて 設計されていたのだろう
大家さんへ ビニールプールの使用許可を得る際
元々ファミリー向けには それを売りにしていたと話していた
けれど 何年か前 プールの水をベランダの排水溝へ一気に流した事で
排水溝が壊れてしまい 大掛かりな工事が行われてからは
ビニールプールの使用を 全面禁止にしていたそうだ
だが そこはやはり プールを使用したい声が多く上がった為
ルールを守って使用する家庭には 許可が下りている
もちろん 無断で使用したりすれば罰金を支払わなくてはいけないし
排水溝を壊す等をして 再び工事が行われる事になれば
その費用も全て 自身で支払う契約になっている
よって プールで使用した水は 浴室で破棄するようにと
少々面倒かもしれないが 多額の費用を支払うのに比べれば
ベランダと浴室を 何往復もする方が断然いいに決まっている

まだ プール自体も知らないいーくんには
お風呂と似たようなものだと説明して 水に手を入れた
ぬるくてちょうどいい水温なのを確かめ 中へ入るのを促せば
つま先で 水面をちょんちょんつつきながら 恐る恐る入り
お尻をゆっくり下ろして座ると 手で水をぱしゃぱしゃさしている
お風呂とは違う水遊びに 気持ち良さそうに目を細めては
体を揺らして波を作るいーくんに 魚のおもちゃを渡した
カクレクマノミやチョウチョウオなどの可愛い魚達は
水に浮く ぷにぷにした柔らかい素材で 感触も楽しめる
その中でもウミガメが気に入り スイスイ泳がして遊ぶ様子は
楽しそうで何よりだ
一緒に遊ぼうと言ういーくんから おもちゃを受け取り
膨らませておいた エアクッションに座って一緒に遊ぶ

猛暑続きで 強い紫外線や熱中症の心配もあり
最近は あまり外で遊ばせないようにしていた
室内でできる遊びは色々あるし 屋内の遊び場も都内に沢山あるが
マンネリ化してきて 少々飽きてきたのだ…
俺としては もっと外の空気を吸いたいし 吸わせたい訳で
この暑さもあり 涼しさを感じられる水遊びをさせよう思い
海へ行こうかと考えたが まだ3歳のいーくんに遠出は疲れるだろうし
強い陽射しは 子どもにとっては かなりきつい
屋内プールなら近場にあるが どこも人がいっぱいで
蒸し暑そうだと思いやめた 川遊びも海と同じ理由で断念したが
一度水遊びをさせたい(むしろ俺がしたい)と思うと
中々諦めきれず 通販でビニールプールを探した
そこで困ったのが 最近のビニールプールは 日除けの作りが多く
デザインも良い物ばかりで どれにしようか結構悩み キノコや車
屋根付きといくつかある候補の中から 口を開けたデザインで
ヒレも付いて可愛らしく 子どもウケ間違いなしと
商品説明欄に記載されていた魚型のを購入した
プールの底面にも空気を入れられるようになっていて
固い場所でも 快適に遊べる事に惹かれたのも大きい
(実際 いーくんの反応も良かったし
   底も柔らかいで 文句なしの買い物だったな)
魚の玩具や 俺が座っているエアクッションも一緒に購入した物で
他にもまだあるが それはまた後で出すつもりだ


「おさかなさん ゆかげんどうでしゅかー?」

「とっても 気持ちいいなぁ」

魚がお風呂に入ってるとか
茹で上がるとかの そう言う突っ込みは無しに
お風呂で 俺がよく言うのを真似ているのだとわかって微笑む
じょうろを使い 肩へ水をかけてやれば
きゃっきゃと喜ぶ いーくんに また別のおもちゃを渡した
可愛いクジラとアザラシの水鉄砲で 口の部分には穴が開いており
指で押して凹ませてから離すと 中へ水が入る仕組みになっている
やり方を教えて 水を入れさせている間
直径6センチ程の丸いステッカーを 窓にぺたぺた貼っていく
それは 星だったりハートだったりと 絵が描いてある物から
何も書かれていない物を 間隔をあけて複数枚貼り付けた

「ぱぱ それなーに?」

「これはね 水をかけると色が変わるんだよ」

試しに 星の絵が描かれたステッカーに水をかけると
黄色の星が緑色に変化する 乾けば元の色に戻り
何度でも 貼って剥がせて使えるのが この商品の良い所だ
さっそく 手で掬った水をかけようとした いーくんへ
渡した 水鉄砲を使うように勧める
ピンポイントでかける方が 面白いと話せば素直に水鉄砲を使い
ステッカーの色を変えていき ピンク色のハートはオレンジ色に
何も描かれていなかったステッカーには カラフルな柄が現れた
いーくんの目を十分に楽しませている事に満足な俺は
水を張った浅い容器に足を浸けながら 遊ぶ様子をスマホに収める
少し高めの位置に貼ってあるステッカーを 上手く狙えず
悔しそうな表情でさえ 只々可愛くて仕方がない


「よーし 頑張れ!もうちょっとだ…あ 惜しい
そこ左…いや もうちょい右で 上の………そこだ!」

一番高い場所に貼っていたステッカーに 水が当たり
ニコちゃんマークが浮き出た瞬間 歓喜の声が上がる

「やったー! ぱぱ みた? ぜんぶできたよ!」

「あぁ ちゃんと見てたよ」

全部のステッカーに
当てれたと喜ぶ いーくんとハイタッチをする
水分補給にお茶を飲ませ 少し気温が上がったのを感じ
水で濡らして 軽く絞ったタオルを頭に被る
涼しくて気持ちがいいのを 声に出していると
ぼくもしたいと言う いーくんへ 同じように濡らしたタオルを被せた
垂れた両端が邪魔だろうから 後頭部に回して結べば 帽子の完成
濡れタオルの帽子に手をやった いーくんが 首をこてりと傾ける

「かっこいい?」

「うん かっこいいよ そのまま笑ってー」

にっこりと笑う かわ…かっこいい息子の写真を撮り
にやけていると お揃いにしてとお願いされて自分のタオルを結ぶ

「ぱぱもかっこいいー」

「ふふ ありがとう」

海賊気分になってきた所で 新たなおもちゃを取り出した

「いーくん これなーんだ?」

「おふね!」

「正解」

手作りの牛乳パックの船をプールに浮かべ
船の後方部分に付いている 輪ゴムのプロペラをくるくる回す
スイ〜っと前進した船に いーくんが手を叩いて歓声を上げた
夢中で遊ぶ いーくんに 楽しい? と声を掛ければ満面の笑みで頷き
明日も明後日も 毎日遊びたいと話す息子に
今年の夏は プール三昧になりそうだと微笑んだ




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