それでもご飯





それでもご飯 @ 〜1歳半〜

もぎゅ

もぎゅ

もぎゅ

ベビーチェアに座り
小さな口を動かして俺が作った離乳食を食べる いーくん
離乳食と言っても もう殆ど終わる時期なので
そこまで柔らかくもなく 多少は味がする物を与えている
ここ最近 自分でスプーンを持って食べるのを覚えた いーくんは
拙い手つきながらも 一生懸命ご飯を掬い口へ運んでいる
途中で何度も零すから 前掛けとテーブルがご飯まみれで
床も悲惨なことになるのは 日常茶飯事で慣れたものだ
初めこそ掃除も大変だったが 今では床にシートを引き
汁物が零れても大丈夫なように トレーを使ったりなど工夫している


「いーくん まんま美味しいな〜」

「…………」

俺を完全無視で ご飯に夢中な息子にめげずに話しかける
きっと このぱっちりお目めには ご飯しか映ってないのだろう
黙々と食べる姿に ちゃんと味わっているのか疑問に思う
まだ口の中に残っているくせに 次々入れるもんだから
どんぐりを頬に詰めたリス状態だ…食べづらくないのか?
飲み込めなさそうだから そろそろやめさせた方がいいな


「いーくん もぐもぐしよう」

「…う〜!」

スプーンを持つ手をやんわり止めると 唸られた
そんな可愛い声で威嚇されたって ちっとも怖くないぞ
この間やっと まんま とか話し始めたが まだ喃語が多く
パパって呼んでもらえるのは もう少し先になりそうだ
めっ と軽く注意しても尚 口に入れるのをやめずにいた為
とうとう いーくんの顎も限界が来てしまい ぱかりと口が開いた

「ほらー だから言っただろう」

れろれろ〜 と吐き出された その結構な量に苦笑する
慣れた手つきで 汚れた箇所をサッと布巾で拭いてから
出たものが掛かってしまったご飯を下げた
何が起こったのか わかっていない いーくんだったが
ご飯が食べられなくなった事だけは 理解できたらしく
テーブルをバンバン叩いて 騒ぎ出した

「あー!うー」

「はははっ…今用意するから ちょっと待ってな」

食べさせろと抗議する 可愛い息子の頭を撫で
予め 多めに作っていた ご飯を用意する
よく食べるから ぶくぶく太らないか心配になるなぁ…


「この 食いしん坊め」

頬をぷにっと突けば その指を掴まれ ぱくりと咥えられた
俺の指をあぐあぐ噛んでいる いーくん……可愛い…
歯茎の感触が思いの外擽ったくて そっと引っこ抜く

「まったく…パパは まんまじゃないぞ?」

噛まれていた指を 目の前でチラつかせると
いーくんは わかってるとでも言うように笑い声を上げた


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それでもご飯 A 〜2歳4ヶ月〜


パリパリに乾いた洗濯物を 簡単に畳んで籠に入れていく
俺の可愛い息子は 和室でぐっすり お昼寝中だ
天使の寝顔を眺めていたいが 今の内にやる事をやっておかないと
これが終わったら コーヒーでも飲んで休憩しようか
お菓子は何があったかな?そんな事を考えていると
部屋からバタバタと物音がする……もう起きたのか
(今日は少し早い…寝つきが悪かったかな?)
ひょこ と部屋を覗けば玄関まで突っ走るいーくんの姿が目に入った

「えっ ちょ…いーくん?! 待て待て いーくんっ!
  ストップ! ストップ!! 」

そのまま走って行けば 玄関の段差で落ちるとか
頭を打つかもしれないとか 悪い考えが頭によぎり
慌てて追いかけようとした際 籠に足をぶつけて倒し中の洗濯物が
散布したのも気にしてられず 必死に呼び掛けながら 追いかけた
すると 上手い事段差の手前でピタリと止まった いーくんは
グルンと方向転換して 俺の方へ走ってきた
落ちなかった事に よかったと胸を撫で下ろして駆け寄る

(ふぅ……心臓が止まるかと思った)

しかし…寝起きであんなに走るとは思っていなかった
今回は いーくんが止まってくれたから良かったものの
次もそうなるとは限らないし 怪我をする恐れもある
リビングの戸を 開けっ放しにしていたのも悪かったな
キッチンに入られるのも危険だから 柵を取り付けるとしよう


「いーくん お外に行きたかったのかな?」

玄関に行ってたから てっきりそうだと思い尋ねるも
頭を横に振り 違うと示す いーくんの目には涙が浮かんでいる
怖い夢でも見たのかな?……これも違うらしい
ぎゅっ と俺の袖を掴んだ いーくんに 一つの答えが浮かんだ
(…あぁ そうか)
目が覚めて俺が居なかったから 探してたんだな
ぱっと見では部屋にいないから 外にいると思い玄関へ向かったのか
その行動に胸がきゅんとなり 感動した俺は いーくんを抱き締めた
よしよしと頭を撫で頬擦りする 何なんだこの可愛い生き物は
もうあれか 少しの間も離れたくないってやつだな

「いーくんごめんな パパが居なくてびっくりしちゃったか?
  お洗濯してたんだよ 寂しかったな〜 パパもいーくんと
  離れたく「まんま!」……あははっ ママじゃなくてパパだろ〜?」

何言ってんだか……言い間違えちゃって可愛いなぁ
体を離し さぁ もう一回言ってごらんと 優しく微笑む

「まんま」

「違うだろ」

「まんまっ」

「パパだよな?」

「…まんま たべゆっ」

しつこく聞き返す俺に いーくんが何度も首を横に振り
半泣きになりながら 必死にまんまと話している
そこまで否定しなくてもいいじゃないか……
ごめんごめんと謝り 今から作るねと言って抱き上げる
俺よりもご飯な事実に 痛むこめかみを手で押さえ揉み解す
あの感動は何だったんだ…喜んでいた俺が馬鹿じゃないか
いーくんをベビーチェアに座らせて キッチンに立つ

「まんま つくてー」

「はーい」


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それでもご飯 B 〜3歳〜


「しゅご〜い!」

目の前の食べ物に目を輝かせはしゃぐ いーくん
ずっと前から 食べさせてあげたいと思っていた
ホットケーキを 今日のおやつに作ってやったのだ
食べきれるように 小さいサイズのホットケーキを2枚重ねて
ホイップとフルーツを盛り付け 彩りも完璧だ
仕上げにメイプルシロップを目の前でかけてやると
足をパタパタさせて きゃあきゃあ喜ぶいーくんは
早く食べたくて仕方ないってくらい 口をもごもご動かしている
ちょっと待ってねと言い 一口大に切り分けていく

「食べるときの挨拶は?」

「いただきましゅっ」

おててがグーになっているけど可愛いから良し きちんと言えた子に
よくできましたと褒めて いーくんのおててにフォークを握らせる


「んぅ〜%○◆☆!!」

「そうか そうか」

何を言ってるのかさっぱりだが 美味しいのは十分伝わってきた
ホットケーキを頬張り ふにゃふにゃ笑う姿は癒しの塊だ
そうして あっという間に平らげると満足気にご馳走様をして
美味しかったと感想を述べる息子へ 最近恒例の質問をする


「ホットケーキ好き?」

「しゅき」

「パパも好き?」

「うん しゅきー」

「たははっ 俺もいーくん好きだよ」

この言わせてる感が半端ないやり取りが 結構好きだったりする
いや ほら…中々好きとか言ってもらえないからさ
確認というか何というか……誰に説明しているんだ俺は
食器を下げて 紙パックのりんごジュースを与える
ちゅーちゅー飲んでいたストローから ぷはっと口を離すと
ジュースも好きだと話す いーくんにパパの方が好きだよなって聞く
それに頷いた いーくんは言わなくていい事を言うのだった

「ごはんのが もっとしゅきー!」

「はい ジュースなーし」

「やだー!」



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