また今度 の今度





「じゃ〜ん ぼくの丸焼き〜」

何気に恐ろしいことを言っている樹は 鉄棒を両手で掴んで
両足をかけた体制でぶら下がり 豚の丸焼きを披露してみせた
得意げに披露する我が子に小さな拍手を送ると 次の技をする

「こうもり!」

「おぉ〜 上手い 上手い」

俺が褒めると調子を良くした樹は 腕を広げ体を前後に揺らした
手をパタパタさせて 楽しそうに揺れている姿は可愛い
可愛いんだが……落ちないだろうか少々不安になる
表面上は笑顔で見守っているけれど 内心冷や冷やものだ
しかし 鉄棒が出来なかったと話していた割には
結構出来ていると思うんだが……どうなのだろう?
本人も楽しくやれているようだし……
両手をついて足を降ろすと 手についた土を払い鉄棒に飛び上がる
足を伸ばしてピタリと静止し今度は『つばめ』を披露する
そのままゆっくり前に傾いていくのを見て
続け技で『布団』をするのかと思いきや
途中でやめてしまい 鉄棒から降りてしまった……
あぁ…成る程 そう言うことか……大体の予想がついた
しゃがみ込んだ樹の隣に自分も屈む


「怖かったか?」

「………うん」

思っていた通り…樹は前に倒れる動作をするのが怖いようだ
聞けば落ちるのではないかと考えてしまい 出来ないらしい
それだけじゃなく きっとお腹も痛いのだろう
前に倒れるのに緊張して力が入ると 余計に痛く感じてしまう
これに慣れないと 基本の前回りも出来ないからなぁ
もう一回する? ゆるゆると首を振って膝を抱えた樹の背をさする
まぁ こんなこともあろうかとあるものを持ってきていたのだ
近くのベンチに置いていたトートバッグから秘密道具を取り出す

「てってけてってってーーてってーー! ふわふわタオルー」

「…………」

あれ…駄目か? 某アニメのキャラっぽく言ってみたんだが
樹の反応からして 似てなかったのだろう
効果音には自信があったんだが 肝心な声真似は出来ないからな…
四次元ポケットならぬ 四次元トートバッグから取り出したタオルを
半分に折って棒に巻き 紐で結べば補助タオルの完成だ
うん……これなら お腹もそんなに痛くはならないだろう
補助タオルに興味を示した樹に もう一回してみるか誘う

「前に倒れるのが怖いなら 落ちないように支えててあげるから
  もう一回やってみようか」

「…うんっ」

鉄棒に飛び上がった体を支えて ゆっくり前に倒れるように言う
途中で怖がる樹に 絶対に落ちないから大丈夫だと安心させて
なんとか逆さまになった所で 手を離させる

「パパ…離さないでね」

「大丈夫 ちゃんと支えてるよ…ほら 手ぶらーんってしてみな」

そろそろと手を離して 腕を下げた樹
お日様の香りはしないけど ちゃんと『布団』になれてるぞ
鉄棒を掴んで起き上がると ふうっと息を吐いてにっこり笑い
次は自分だけでやると言い 一人で挑戦する
さっきより若干スムーズに出来ているのを見て
そこから前回りをするように言うと顔を顰める子に
でんぐり返りと同じ感じでやればいいと教える
恐る恐る回転した樹は タンッと足を地に着けた

「できたーっ」

「よーし じゃあ今度はタオル無しでやってみようか」

「えぇ〜……早いよ」

「一回出来たら 簡単さ」

タオルを取り外した鉄棒に 渋々飛び上がる樹
その体制で止まるように言って 棒に当たっている部分を見てもらう

「ここ よく見て…樹はお腹を当てているだろう? 鉄棒ではお腹じゃ
  なくて腰を使うんだ それから肘もピンと伸ばしてやるんだよ」

「…腰?」

きょとんとする樹の脇を両手で挟み軽く持ち上げる
肘を伸ばしてと言い 棒に当たる部分を調整する
お臍の下のもっと下の……ここかな

「いいか? ここを使うんだ」

「うん」

しっかり頷いたのを確認して そっと手を離す
緊張気味に少し前へ傾いた樹が首を傾げたのを見て
やはり痛いのだろうかと考えていると 勢いよく回った
てっきり『布団』からやるものだと思っていたのに
怖がらないで こうもあっさりと『前回り』をしたのには驚いた
やったー!と喜んでいる樹とハイタッチをし髪が乱れる程撫で回して
褒めちぎってやる

「凄いな樹〜! 出来たじゃないか!」

「うん! パパがアドバイスしてくれたから」

パパのお陰だね そう言って微笑む樹は鉄棒のコツを掴み
自信もついたからか 何度も『前回り』をしだす
俺も一緒にしようと誘われたが 生憎この公園の鉄棒はどれも低く
子供用のしか設置されていない…大人の俺がしたら
確実に頭を打つ事になるので やんわりと断っておく

「えー ひとりじゃつまんない」

「……パパ 怪我しちゃうからさ 別のにしようよ ね?」

結局 一緒にブランコと滑り台をして遊んだのだが
ブランコはともかく 滑り台は普段から下で待機していた事もあり
この歳で滑るのは 少々抵抗があると思えた日だった


数日後 学校から帰った樹が
体育の授業ではなまるを貰えた事を報告してきた
カードを見せて担任の先生に褒められたんだと自慢する息子は
喜んでいたかと思えば 次第に表情が暗くなり俯いた
言いにくそうにして 見上げる樹にもしやと考える

「…あのね……逆上がりが出来ないの」

予想していた通りの言葉にクスリと笑い 髪をふわりと撫でた

「じゃあ また練習しに行こうか」

「うん!」

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