満ちた月
それは余りに
哀しく
優しく

『柔らかい傷痕』

身を起こすのは決まって夜半。世を憚らなければならない身の上は甘んじて受けているつもりだ。寝ている人間はそのままに布団を出れば冷えた空気が肌を浚う。ゆっくりと窓辺に身を寄せて眼を閉じ、包帯を緩めていく。解き終えた布を水に浸し、閉じられた障子をずらし、何ら変わりの無い片眸にゆらり揺れる水面を映す。人払いをしてあるこの部屋には誰も来ない。況してやこの時間。起きている人間など警邏以外、酔狂の他ならない。
だから、起きたのだ。盲いた傷を癒すのは夜の死んだ光で十分だ。
新しく布を出そうとすれば、後ろでゆっくりと空気が動いたので、そちらに視線を遣る。そのままその影は暖かい空気を纏い身を寄せる。その温度差で、布団を出てからそんなに経ってない自分の身体が冷えている事がわかる。その腕はこの身を通り過ぎて障子に手を掛け、音も無く少し開く。
「高杉、」
左眼に暖かい感触が広がる。
「見えるか?満月だ。」
低い声に惹かれる様に天を見上げれば星すら見えない、煌々とした一つの光。
「あぁ。」
傷口が解かれる様な感覚。
「まだ、痛むのか?」
優しい響きと暖かい指先に。
「もう、慣れた。」
眼を閉じて柔らかく食らわれる感覚をやり過ごす。

銀時、

お前は、

哀しくなる程、

優しい。

その優しさに喰らい尽された時、

俺はどうすれば、良い?






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テーマ「人外ファンタジー」
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