奪うも与えるも
紙一重でお互い様


『プレゼント争奪戦』


強い陽射しの中を歩く。暑い。茹だる。まだ雨の季節の終わりは聞いてないが、陽射しは既に夏を始めている。雲間の青が鮮明過ぎて視界が少し白けて来る。それでも、歩く。苦手な季節の訪れは個人的に逃せない。目の前にぶら下げられている餌を手に入れる為ならこれ位の罠には臆していられない。罠と思う辺り自分でも大概な物だが、罠以外に何と言えば良いか見当も付かないんだから仕方が無い。傘の日陰を確保しながら歩いた先に、このくそ暑い中黒い服を着ている餌が木陰でのんびりアイスを食っていた。アイス食う位暑いなら涼しい格好しろ。
こちらに気が付いたのか、顔を上げて言葉を放つ前に鼻で笑いやがった。
「何でィ、チャイナ。んなふらふらする位なら家でアイスのCMでも見てろィ」
「ふざけんなヨ。CMで涼しくなるならお前がそのアイス置いて屯所に帰るヨロシ。バーゲンダッシュの夢でも見てな」
木陰のギリギリのラインで立ち止まって見下ろす。
「かわいくねー。まだアイスあんのに」
「マジでか!」
「ハピコ。要るならそれなりの態度示してくんねーとなァ?」
声音を上げた途端、上目線になるこの性格の悪さは本当に感心して言葉が出ない。いや、出せないの間違いかもしれない。言葉に詰まっている私に更に口端を上げる。
「ハピコ溶けちまうぜ?」
手が出そうになるのを何とか抑えてその場にしゃがみ込み、相手と目線を合わせる。見上げた格好から相手も視線を合わせ、暫し黙る。きっと向こうは出方を伺っているんだろう。ゆっくり頭の中で言葉を反芻する。
「誕生日おめでとうごぜーます、沖田総悟さん」
唐突な言葉に大きく目を開いたと言うのはきっと作戦は成功したんだろう。二の句も継げない様子にこっちまでもつられて瞬きをしてしまう。目を合わせて少しの間、視線を逸らしたのは向こう。心底おかしいと言うように笑い出す。
「何でィ、それ」
笑い出したコイツをどうしたら良いんだろう。今度はこっちが困る番。
「ほらよ、やる」
出されたアイスを流れで受け取ると相手は凭れていた身を起こした。そのまま近くなって来た距離に気付く間もなく頬を掠めた唇。
「不意打ちは禁止でィ」
至近距離で小さくつぶやいたと思ったら、立ち上がって見下ろして来た。見事な立場逆転。
「お前の事だから誕生日にプレゼントをせしめるつもりだろィ、見え見えなんだよ馬鹿チャイナ。後四ヶ月指咥えて待ってな。貰ったからにゃ相応のもん返してやらァ」
また鼻で笑ってその場を立ち去ろうとするのは止めない。お互い背を向けたまま。その顔は見せないまま。互いの視界を掠めた朱を言わないまま。お互い奪ったものがあるんだから、今はまだこれ位で半々だと思わなきゃやってらんない。


誕生日に奪い合うとか、馬鹿らしい
でも毎年おめでとうの度に奪い合うんだ
お互い様だろ?




HAPPYBIRHTDAY!沖田!


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テーマ「人外ファンタジー」
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