例えば
この一歩が
最後でも

『最後の朝』

早朝の町を不服そうなエンジン音が響く。朝と言うにはまだ早く、東の空は薄らと橙から濃紺のグラデーション。人も車も無く、信号だけが明るく灯る眠った街を一台のスクーターが走る。
「先生、原付のニケツはどうかと思うぜ?」
後部座席と言うには狭過ぎる後ろから半ば呆れた言葉が投げられる。
「良いんだよ。旅立つ可愛い生徒を送る担任、涙ぐましい光景だろ」
意にも介さず更にアクセルを開ける。背後で小さく笑う空気が漂う。スピードを増したスクーターの前に駅が見えてくる。減速して端に停車をし、後ろが降りるのを待ってエンジンを切った。
人の居ない始発前。先ほどより少し世界が明るくなった。
「にしても、お前が大学に行くとは先生ビビったわ。通るのはわかってたけどよ」
ポケットから煙草を出して火を点けると、すかさずその箱を取られ相手も倣う。薄暗い駅に二つ小さな明るい火種。
「別に。偶に勉強しても悪かねぇと思っただけさ」
紫煙を燻らせながら小さく笑う片眸は変わらず大人びていて未成年喫煙と言う堅苦しい言葉を忘れる。
「何か感慨深いな。生徒が街を出て感傷に浸るたァ、俺も年食ったもんだ」
苦く笑う双眸に少年が紫煙を吐きかけると青年は大きく咳をする。
「そんなんじゃこの先卒業生が出る度に老いていくな。老い先が目に見えらァ」
灰皿代わりの缶に吸い殻を入れ、荷物を持ち直す。青年も吸い殻を入れ、小さく息を吐く。
「んじゃ、元気でな。あんま煙草吸い過ぎんなよ」
「先生に言われたかねーな。精々肺ガンになんなよ」
後ろ手に手を振りながら、駅舎に向かう背中が止まり、軽く振り向く。

「四年後、あの学校の保健室は俺のもんだから根回しよろしく」

暁を背にさも当然の様に笑む深い眼に一瞬間が空くも盛大に笑って。

「俺の休憩所確保の為に頑張ってやるよ」


アンタを見上げる最後の日。
アンタの隣に並ぶ最初の日。




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