スパティフィラム | ナノ
 






平和島静雄は、折原臨也の匂いが嫌いである。何故かと問われれば首をかしげてしまうけれどどうしても嫌悪感を抱いてしまうのだから仕方がない。
しかし、彼の匂いが嫌いだからこそ臨也が池袋にいると言うことがすぐに分かるし、居場所だって大体どこにいるか位は分かるのだからいいことなのかもしれない。
臨也の匂いが嫌いだと言ったけれど、折原臨也と平和島静雄は恋人同士であった。







「シーズちゃん」


ソファーに座っていた背中に圧し掛かる体重と自分の名を呼ぶ甘ったるい声。それと同時に運ばれてくるのは彼の声と同じような甘い香りだった。臨也は自分を高校時代からこのように嫌がらせも込めて呼んでくる。
今となっては臨也だけでなく友人と呼べるのか分からない微妙な位置の狩沢が呼んでくることもあるし、周囲にも少し定着してしまっている気がして何とも複雑な気持ちになる。


なんだ、と臨也に目を向けつつ答えれば彼の待とう雰囲気が少し柔らかくなったのを感じた。臨也は静雄に声を掛ける瞬間まで、何処か躊躇うような、壊れものを扱う様な不安げな空気をまとっている事がある。そんなときはおそらく仕事や、彼の頭の中で何か不都合なことがあったり、認めないとはいえ少し精神が揺れている時なのだろうと静雄は判断する。


「仕事、終わったんだ。」
「…おつかれさん」
「それだけ?」
「他に何言えっていうんだよ」
「言うとかじゃなくてさあ」



臨也が不満げに口をとがらせているのを横目に、静雄は吸っていた煙草の煙を吐き出す。臨也はこうして自分に何かをさせようとしたり言わせる事が好きだ。
静雄にとってはまるで自分の気持ちを確認させられているようで不愉快だったりするのだが、この恋人はそんなことを気にするような男ではない。


はあ、とため息をついて目の前の灰皿に煙草を押し付けると首元に寄せられた髪にそっと唇を落としてやる。髪から香るのは静雄の大嫌いな匂いで、思わず眉をしかめるとそれに気づいた臨也が楽しそうな笑みを浮かべた。



「本当にシズちゃんって俺の匂い好きだよねえ」
「お前頭沸いてんのか?好きじゃねえよ」
「好きでしょ。」
「好きじゃねえ」
「まあそれでもいいけどさ」



折原臨也は、平和島静雄の匂いが嫌いである。何故かと問われれば首をかしげてしまうけれどどうしても嫌悪感を抱いてしまうのだから仕方がない。
静雄のように彼の匂いが嫌いだからこそ居場所が分かるなんて事もないけれど、池袋全体に彼の匂いが充満しているような気がしている。

静雄の匂いが嫌いだと言ったけれど、折原臨也と平和島静雄は恋人同士であった。



彼の力には似合わない様なあまく優しい香りはすぐに自分の体も包み込んでしまうのだろう。






「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -