12月24日。池袋の街も身をさすような寒さになり、息を吐けば当然のように白く見える。今日は世間で言うクリスマス・イヴであり、街ゆくカップル達や街は明日のクリスマスが待ち遠しいように普段より少し明るく見えた。きっと水族館も明日は大変賑わうのであろう。今日もサンシャイン通りは人であふれていた。
どこか現実離れした気持ちでぼんやりと街を眺めながら歩いていると、白い息が耳元にかかった。
「やあ。」
「っ、なにしてやがる」
「何って、今日はイヴじゃない。恋人に会いにきたんだよ」
「手前、恋人なんか、」
いたのか、と言いかけて止める。これではまるで自分が臨也に恋人がいては困るみたいではないか。
気まぐれに自分の元に現れては新宿の家に連れていかれ、若しくは自分の家に押し入られ、ほとんどの場合は荒々しく、時にはまるで恋人との情事のように甘く優しく静雄を抱く。
そうして性処理をしているくらいなのだから恋人などいないのだと思っていた。やはり臨也は最低な男だ、と内心で毒を吐く。
「シズちゃん?」
名前を呼ばれはっと我に返れば目の前に臨也の顔があった。思わず距離をとれば臨也の眉が不機嫌そうに寄せられる。
「何、機嫌悪いの?」
「手前と会って機嫌のいい時があるか?」
「あるじゃない。自分では気づいてないかも知れないけど、シズちゃん俺に抱かれてる時なんて本当気持ち良さそうな顔してるし」
「なっ、んなことねえよ死ね」
「はは、ひどいなあ」
情事中の舐めるような手つきで頬から唇を撫でられ、唇をなぞる指を噛んでやれば臨也はどこかどこか嬉しそうに笑って、先ほどまで自分が噛んでいた指を舐める所を見せつけられる。
ああ、気持ちが悪い。
その指で今から他の女を抱くのだろう。それなのに俺にこんな、どうしようもない熱をもたらして反応を楽しみやがって。
苛立ちと少しの意味を込めて右手で灰を落としている煙草をくわえ、煙を臨也の顔へと吹きかける。
すると一瞬不快そうな表情をしたものの、その顔はすぐにいつも以上の笑みを浮かべた。
「シズちゃんって、それわかっててしてるのかな?」
「…何のことだ」
「ああ、何でもないよ。そうだシズちゃん、ケーキもあるし今日は俺の家に行こうか」
「手前、恋人は」
「俺の恋人は素直じゃない上に鈍感だからね。ってか、まだ本気でそんなこと言ってないよね?」
「…意味わかんねえ」
さすがに、静雄もここまで言われて理解できないほど馬鹿では無い。面倒な女のように言葉にしてほしいなどと女々しいことを思っているわけではないが、これまでの関係からは臨也の言う恋人が自分であるなどと言う考えがすんなりと落ち着くわけもない。
何とも言えない気持ちでまっすぐに臨也を見つめれば、耐えきれないと言うように笑って、そっと煙草を奪われたあとゆっくりと口付けられた。
「好きだよ。俺は前から恋人のつもりだったんだけどね」
「…馬鹿じゃねーの」
「かもね。人間が大好きな俺がシズちゃんみたいな化け物を愛してしまったんだから。本当に、思い通りにならない」
「思い通りになんねーのはお前もだろうが」
「そうかな」
「そうだ」
いつもの何かを企んでいる顔ではなく、どこか楽しそうな表情に少し戸惑いつつも言葉を返す。やはり思い通りにならない。
先ほど奪われた煙草は、いつの間にか地面で消えていた。
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