「は?シズちゃんが告白を?」
「そう、…君が出した手紙じゃなかったのかい?」
昼休み、昼食をとろうと静雄と新羅のクラスへ向かったところ静雄はおらず、中学時代からの知り合いである新羅だけが弁当を広げ座っていた。
しかも静雄は手紙をもらい、女生徒であろう人物の告白を受けに行ったらしいというのがこの友人の証言である。彼、平和島静雄は男であるものの、臨也の恋人でもあった。
もちろん臨也と静雄の関係は普段付き合いのある門田や新羅、そして新羅の思い人であるセルティ位しか知っているものはいないのであるが、そのために知らずに静雄に告白をしてしまうというその事実自体は理解ができる。できるの、だが。
「なんでまた、俺じゃなくてシズちゃんなんだろうね」
「君と同じで静雄に惹かれた、それだけのことでしょ」
「それは…そう、だろうけどさ」
「静雄が本当は優しい奴だってことが女の子たちも分かりはじめたんじゃない?」
臨也は、自分以外の人間から静雄が好意を寄せられているということが気に入らなかった。新羅の言うことはとてもよくわかるし、しかしこの年頃の女子が静雄に対して、狂いそうなほどの愛情を持っている訳でもなく、ただの気の迷いの一環であろうということも自分に対する女子生徒の対応からも知っていた。
軽い気持ちで自分が壊してしまいたいと思うくらいの愛情を持っている恋人――静雄に手を出すのは、とても気にくわないことだ。
新羅は臨也のそんな心情を理解しているのか目を細めこちらを見るばかりで、自分の立場なら気が気じゃない癖にと内心舌打ちをする。
焦りなのかなんなのか良くわからない気持ちを抱えていると、教室のドアを開き静雄が戻ってくる。まるで何事ものかったかのように弁当を持ちこちらに向かってくる静雄にすこし腹が立ってしまうのは自分の心が狭く、余裕をなくしているからなのだろうか。
「静雄、どうだった?」
「どうって、何がだよ」
牛乳パックにストローをさしながら静雄が不思議そうに新羅へと目を向ける。新羅は自分の反応を楽しんでいるようで楽しげに笑いながら静雄へと質問を開始する。
「何がって、呼びだしだよ。告白だったんでしょ?」
「はぁ?違うっての。甘いものは好きかって聞かれて、おうって言ったらクッキーを貰っただけだ」
「へえ、良かったじゃない」
自分が発した声は思ったよりも機嫌の悪さがにじみ出ているような声で、はっとして口を閉じる。ちらりと静雄を見れば驚いたような表情をしていて、余裕のない自分が心底嫌になる。
「臨也?」
「ごめん。」
小さな声でそう言い、席を立ち教室を出て屋上に向かう。静雄が女性特有の甘い香りをさせていたことも、もらったクッキーを上手いといって食べるのだろうことを想像するだけでも、胸の奥からドロドロとした嫉妬心がわき出てくるのが嫌というほどに感じられて解放感を求めているのだ。
屋上に向かう最短距離のために他学年の教室の前を通っていると、女子生徒特有の高い声が聞こえてきた。
「えっ、じゃあ平和島先輩に渡せたの?」
「よかったじゃない!」
その声が耳に入った瞬間、臨也の視線と足は声のする方向へと向かい、思わず廊下で話している年下の女子に話しかける。にこりと笑みを浮かべ、しかし怒気を含んだ声で。
「シズちゃんに、近づかないでくれるかな?」
「此処にいたのかよ。」
「あ、さっきはごめんね」
「別に…、クッキーは、新羅にやった」
「でも貰ったんでしょう?」
どこかすっきりとした表情の臨也に、静雄は小さくため息をつく。きっと、また誰かを自分から遠ざけたのだろうと理解し、それが先ほど自分を呼びだし、震える手でクッキーを渡してきた可愛らしい少女なのだろうということも理解して。
しかし、静雄はそれが嫌なわけではなかった。
「…また、なんか言ったのか」
「別に。ねえ、シズちゃん」
「何だ」
「俺は怖いんだ、君が他の誰かに奪われてしまうことが。」
「…そうか」
俺だって、同じだ。そう思っても、静雄は何も言えなかった。臨也はきっと自分も同じ心配をしていると知ったところでなにも変わらないのだろう。
彼には、自分しか見えていないのだ。
頬に触れられ、そっと唇が重なる。これは彼の不安を消す魔法。
心配性で、盲目的な彼の不安を消す魔法。
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