恋人の定義 | ナノ
 



※芸能人パロ
※臨也→マネージャー 静雄→俳優








「お疲れ様でしたー」



平和島静雄は現在人気上昇中の俳優だ。彼のはちみつ色の髪、すらりと伸びた手足に惹かれる人々は多く、またぎこちなくも真っ直ぐな演技が良いなどといった評判もあった。
芸名は弟である幽に迷惑をかけてはいけないと、あえて「羽島」とは違う名前にしたのだがやはり関係者にはばれているようでインタビューなどで問われることも少なくはなかった。



「あ、シズちゃんお疲れー」

「…いじゃ、」

「また噛んだ。そんなのでちゃんと台詞読めるの?」

「うるせえな、黙れクソマネージャーが」



楽屋に戻ってみればえらそうに椅子に座ってこちらを見る折原臨也。静雄のマネージャーであるのだが、なんにせよ臨也は性格がとても良いとは言えないのだ。
静雄の演技に対しても文句をつけ、練習と称して色々とさせられることも少なくはない。



「今日の演技、最悪だったよ」

「そうか?監督は褒めてくれたけどな」

「恋をしてる男の表情ができてないよ。あんな女優相手じゃ無理ないけど」



女優相手にそんな表情をしてた時はしてた時で機嫌が悪くなるくせに、と静雄は思う。そんな思いが表情に出ていたのか、臨也は椅子から降り静雄に近づくと顔をじっと見つめる。
一体なんだというんだ、マネージャーという立場を利用してはさんざん自分を良いように扱って。恋人といったはっきりとした関係性ではなく曖昧な関係を続けさせられて。本当に、一体なんだというのか。


「そう、その表情。それがカメラの前でできればいいんだけどねえ」

「は?」

「シズちゃんは、俺を見るときの表情を鏡で良く見てなよ」



言うが早いか、鏡の正面の壁に押し付けられ、強引に唇を奪われる。後頭部を引き寄せられ角度を変えて何度も重ねられる唇。
鏡を見ろと言っていたのを思い出し視線を上げるも、キスに翻弄され自分の表情を確認することなどできない。臨也は、キスが上手いのだ。なんだかんだいってファーストキスも奪われたし、童貞すら卒業していないというのに女のように抱かれたのもこいつが初めてだったか。そう思い返すと少し腹が立つ。



「相変わらず下手だねえ、キス。」

「手前が無理やりしてるだけだろうが」

「でも、君の表情は良くなった。俺のおかげだね」



そう言ってもう一度軽く唇を重ねられ、何事もなかったかのように手帳を開きこの後のスケジュールを淡々と説明される。本当に気まぐれな男だと思う。臨也は男である自分から見ても綺麗に整った顔立ちをしているし、どちらかといえば自分よりも俳優という仕事が似合っているように思える。
女にも困ることはないだろうに、わざわざ何故男で、しかも仕事上でのパートナーである自分に手を出すのか、静雄には全く理解ができなかった。



「あ、シズちゃん次の仕事インタビューだからって気を抜かないでよ?」



わかってるよ、そう頷き臨也に案内されるまま別のスタジオへと移動する。撮影とインタビューが同時にできるようになっているらしく、時間の短縮もできて丁度いいと臨也は言って、責任者らしき人物のもとへとあいさつに向かった。
今回のインタビューはどうやら女性向け雑誌の人気俳優特集などというもので、俳優の私生活に迫るというテーマらしかった。私生活に至っては全く女っ気もなくクリーンなもので、なにも心配することはないのだが、自分の私生活を知って一体どうするのか。



「それじゃあ、静雄さん。宜しくお願いしますね?」

「あっ、はい。お願いします。」



円形のテーブルに座り、記者の質問に淡々と答えていく。大抵は他の雑誌でも聞かれるような身長体重、休日の過ごし方なのだが、それでは…と一呼吸置いてはじめられた質問は恋愛系の質問で、例えばファーストキスの場所だとか、そういったものを上げさせられるものだった。

質問に答えていくたびに、脳裏にはマネージャーである臨也の顔が浮かぶ。つい先ほどもキスをした相手。彼と自分との関係性。この記者や、雑誌の読者は普通にファーストキスの相手を女性だと思うだろうが、実際は男である臨也が相手だ。本当にいったい自分はどうしてしまったのだろうか。



「それでは、最後に…今恋人はいらっしゃいますか?」

「えっ、は…その、そんなことまで聞くんすか」

「ええ、どうなのでしょう。」



記者は笑顔で、しかし逃げることを許さないといったような表情でこちらを見つめる。一体どうしたものか。実際、自分には恋人はいない。――――居ないのだと、思う。
言いきれないのは頭に浮かぶ口うるさい黒髪の男ののせいで、当の本人は壁に寄りかかりじっとこちらを見ている。くそ、こういうのはノーコメントで、とか言いながら助けてくれるものじゃねえのかよ。
心の中で悪態をつきつつも、自分の中で結論を出し、記者に向い笑顔で口を開く。




「恋人なんて、いないっすよ」




嫌な予感がして振り返れば、マネージャーが今までとは明らかに違う笑顔、声で自分の名を呼んでいた。







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