※静雄が死にたがりです
※自殺未遂ネタ注意
「死にてえ。」
それが静雄の最近の口癖だった。理由を静雄が口にすることはなかったが、しかし静雄は死にたい、と毎日のように口にした。決まって、臨也に抱かれている時に。
初めて静雄がその言葉を口にしたとき、臨也は驚きもせず「俺が殺してあげようか」と返しただけだった。彼はその言葉に首をふり、それじゃ駄目なんだと呟いた。
なにか悩みでもあるのだろうかと臨也が弟のこと、上司のこと…静雄の周りを独自に調査した所で、特になにも起こってはおらず静雄の「死にたい」という言葉はおそらく思いついただけなのだろうと臨也は結論づけた。
「お前は死にたいと思ったことはあんのか?」
彼が自宅に来て二人でぼんやりとソファに座っている時だった。小さく呟くその声に再度疑問が浮上する。一体どうしてこんな質問をするというのか。
「そうだねえ…死んだところでどうなるかなんて興味はないし、俺は人間が大好きだから。」
だから、死にたくはないかな。その返事に静雄はどこか不満そうにそうか、と答えるだけでしばらくすれば帰るといって部屋を出て行ってしまった。
なんだというのか。シズちゃんが、死にたいなんて。彼にはいくつもの大切なものがあるはずだ、きっと沢山沢山あるのだろう。しかし、その大切なものを捨ててしまいたいと考えているのだから、おそらく自分の情報には入っていないところで何かがあったのではないのだろうか。
池袋周辺で自分の情報網をかいくぐってなにかをすることができる奴はなかなか存在しないだろうとは思うがもしもといった可能性もある。
部屋を出て行ってしまった静雄は、一体どこに行くというのだろう。
もしかすれば、彼は人間への退化を始めているのではないのか。化け物である彼が、人間へと。
馬鹿げたことだと思いつつも、コートを羽織り静雄の後を追うように部屋を出る。端末から見る限り、静雄は自分の家に戻っているようだ。
自分の返答が悪かったがために部屋を出たのだろうか。それとも、何か別の思惑があったのか。
思考を巡らせて見てもやはり彼の考えることは想定外で、臨也が静雄の部屋の鍵を開けて部屋に入れば血の匂いが鼻をかすめる。
「シズちゃん?」
室内を見渡せばガラス製のコップ、陶器など様々なものが散乱していて、まるで強盗が入ったかのような有様だった。
しかし、静雄の姿は見えず、臨也は幽かに音のする浴室へと向かいそっとドアを開ける。
「なにしてるの、」
「やっぱり、俺は死ねねえのかな」
問いの答えにはなっておらず、手に包丁を持ち、シャワーを流しながら自分の手や、足、腹に刃を立て、血を流しながら静雄はぼんやりとした表情で臨也を見上げる。
何故気付かなかったのだろう。こんなにも辛そうな表情をしている静雄をみたことがないのに、恋人だというのになぜ彼が自分を傷つけてしまうまで気づかなかったのか。
「俺が殺してあげる」
「言っただろ、それじゃ駄目なんだ」
自嘲気味に笑いながら臨也に言えば、包丁を取り上げられ、すっと刃先を自分へと向けられ息をのむ。殺してくれるなら殺してくれればいい。でも、それでは意味がないのだ。それでは、―――――
「シズちゃんは、寂しいの?自分だけ置いていかれているようで不安?」
「なっ、」
「図星なんだ。死んだところで自分は大切なものをすべて失ってしまう。でも、大切なものに取り残されるよりはマシだと、そう考えた。だから君は自分で命を絶つ方が楽だと思った。だからこうして、身体を切りつけた。でも、その頑丈な身体は包丁なんかじゃ駄目みたいだね」
まっすぐに臨也へと向けられる視線はまるで自分が彼に向けている切先のようで、彼のこの獣のような瞳はやはり堪らないと臨也は喉を鳴らす。
「だからさあ、シズちゃんは俺が殺してあげるって言ってるじゃない。」
「だから、っ…」
言葉を遮るようにして後頭部へと手を添え、軽く唇を重ね合わせると、安心させるかのように頬を撫で、そっと離れる。
「今、シズちゃんは死んだよ。死にたがりのシズちゃんは。」
「は…?」
「次に君が死ぬのは、俺が君を殺す時だ。そして、俺が死ぬのは、君が俺を殺す時。」
「意味がわかららねえ」
「先に君が死んでも、俺が死んでも、どちらも死ねなくなるんだ。」
俺と君は一緒に死ぬから、そんなに恐がらなくてもいいよ。
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