赤が差す異空間 | ナノ
 





※来神設定













「静雄くん、じゃあ先に帰ってるよ?」

「おう、また明日な。」


放課後の教室、部活動にいそしむ下級生たちを見降ろしつつ振り返らないまま声を掛けてきた新羅へと手をふる。今日は、1人で教室に残っていたい気分だったのだ。
特に理由はなくとも、ぼんやりと静かな教室で生徒たちの姿を眺めながら過ごす。それが、静雄の密かな楽しみであった。
この三年生のフロアにはもうほとんど生徒は残っておらず、吹奏楽部の楽器の音や、運動部の掛け声が聞こえてきて、静雄は窓際の席に着き、体を机へと預け目を閉じる。


「あれ、なにしてるの?」

「は?」


ふいに声を掛けられ、慌てて顔をあげれば臨也が教室へとはいってきていて、静雄は思わず絶句する。
帰ったんじゃなかったのか、そう言おうとするも声にならず視線で訴えるだけになってしまい、視線をまた窓の外へと移した。


「そこ、俺の席なんだよね。…知ってたら、座ってないと思うけど」

「当たり前だ、クソ。」

「いいでしょ、窓際だし、グラウンドも見渡せて…色々な音が聞こえる。」


自分の席だ、と言いつつ臨也は静雄の前の机に腰掛け、夕日がさしかかるグラウンドを見て目を細める。
いつもなら、臨也とこうして二人で同じ空間で大人しく会話をするなんてことはありえないのだけれど、今日のこの夕日と、そして誰もいない教室が二人をどこかまた違った空間に押しやっているようなそんな気がして、静雄もただ黙って臨也の言葉に耳を傾けるだけだった。


「…もうすぐ、夏だな。」

「そうだねえ。もう暑くなってきたし、すぐそこまで夏が来てる気がするよ」

「夏の、匂いがする」

「はぁ?」

「分からねえなら良い。」


それまでただぼんやりと二人して外を眺めていただけの沈黙を打ち破ったのは静雄だった。自身でも驚いたものだけれど、臨也へと向けられた言葉は短く、しかしまるで普通の男子高校生同士の会話のようであった。
夏が、くる。それだけのことなのに彼と話すだけでどうして落ち着かなくなってしまうのだろうか。


「ねえ、シズちゃんは夏休みどこか行くの?」

「さあ。出かけても面倒なだけだ」

「ははっ確かにそうかもね」

「誰かさんの所為で、な。」

「酷いなあ。」


ねえ、一緒に花火にでも行こうか。夏休み。そう言って臨也はにこりとほほ笑んだ。
夕日に染まった臨也の目は赤く、思わず息をのむ。もともと整っている顔に夕日の赤が差し、まるで一つの絵のように映えていて……一瞬時が止まったように見とれてしまう。


ねえ、いいでしょう?――そう言って、静雄の時が止まった一瞬間の間に今まで離れていた距離が少し縮まり頬へと手が添えられ、本当に軽く触れるだけのキスが落とされる。一瞬の出来事に反応できないまま固まっていると臨也は楽しそうに笑った。



「返事は、聞かなくてもよさそうだね」



頬が、熱い。教室が赤く染まる。夏が来ている。
そのせいで、こんなにも落ち着かないのだ




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