8月 | ナノ




「やっと俺たちの番か……絶対サイケや六臂たちよりも静雄のこと喜ばせてやろうな!」

「ええ、そうですね。」


どうやら今月はデリックと日々也の番のようで、日々也は相変わらずの服装であるが、デリックはこの日のために用意したという自分の服と同じピンクと白のエプロンをつけ、キッチンに立っていた。
デリックも静雄同様甘いもの好きであるが、かといって自分自ら甘いものを作るということをしないため、お菓子作りに関しては全くの素人である。
しかし、隣に立っている日々也は王子様らしく味にはうるさいためおそらく自分たちが一番静雄を満足させてやることができると考え、はりきった表情のデリックだが隣の日々也は反して不安そうな表情を浮かべていた。


「しかし…デリック、一体何を作るつもりですか?」

「…そうだな、なにがいいと思う?」


質問を質問で返すのはデリックの悪いところだと内心ため息をつきながらも、日々也はデリックが愛しくて仕方ないため、口元に指を当て考える。
簡単で、おいしくてなおかつ静雄さんが喜んでくれそうな食べ物……日々也が色々な食べ物を脳内で考えている間も、デリックは冷蔵庫をばたんばたんと開けたり閉めたりして、材料を探す。


「そうだ、ホットケーキはいかがでしょう?」

「おお、マスターがたまに作るふわふわか。」

「あれなら私たちにも作れそうですし…静雄さんもきっと喜んでくれると思います」


にこりと日々也が微笑むと、デリックもまた嬉しそうに頷きさっそくレシピを臨也に聞いてくると臨也の仕事場へと向かった。
日々也はマスターとはいえどデリックが臨也になついているのをあまり心良く思っていないため複雑な気持ちになる。しかし、マスターが偶に作ってくれるホットケーキは確かに甘くておいしいので、今回は仕方ない事だと心を落ち着ける。

調理器具の準備をしながら聞き耳を立てていると、「頬にキスしてくれたら教えてあげるよ」という臨也の声が聞こえて慌てて走って行くことになるのは数秒後のことだったのだが。



臨也に教えてもらった作り方は案外簡単で、たまごを泡立つまで混ぜることがふわふわに繋がるのだということだった。
後は少しずつ牛乳を足していくくらいで、そのほかは市販のホットケーキミックスに書いてある作り方となんら違いはなかった。
日々也にしてみればたったこれだけの情報のために愛する恋人であるデリックが臨也に頬とは言えキスをすることが腹立たしく、嫉妬心が消えない。


「後は焼くだけだな…しかしこのミックス、うまそうだよな」

「じゃあ、舐めてみます?」


そう言ってミックスを指に絡め、デリックの口に入れるとあまりに急な出来事にピンクの目が見開かれる。そんなデリックを気にせず、口内で指を舌へ絡め、くちゅりと行為を連想させる音を響かせれば、自ら舌を指へと這わせる。自分が彼を翻弄するはずが、積極的な彼にいつも戸惑わされる。しかし、今日の自分はいつもの自分とは違う。そう、怒っているのだ。

スイッチが入ってしまったのかホットケーキミックスを舐め終わってもなお指に舌を這わせるデリックの口から指を引きぬき、にこりとほほ笑む。




「さあ、早く焼いてしまいましょう」




「このバカやろう!」






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