共同空間 | ナノ
 






不安定ではあるがどこかしっかりとした電子の世界の中、外見だけは静雄そっくりにつくられた月島は、そこにいた。月島の仕事は臨也の仕事で扱うデータ、メールなどを保存し、運ぶことである。
月島をはじめ、彼の仕事仲間であるデリックやサイケも、臨也によって作られたプログラム
兼アンドロイドの一部なため、電子世界上に一人一人の部屋は有るものの、サイケは津軽と、デリックは日々也と同じ部屋でほとんどの時間を生活している。

部屋といっても人間である臨也たちとは違い、フォルダの中にデータとして家具を自由に構築して再現しているといったものなのだが。


自然と、ではあるが同じ部屋で寝食を共にしていることからわかるように、彼らはそれぞれ互いを恋人として認識していた。人見知りな月島は、彼らと過ごすことにすら戸惑ってしまいなかなか交流ができないのであるが、そんな月島がマスターである臨也以外に唯一一日に一度話す存在がいた。



「月島、今日は何かデータある?」

八面六臂、という彼は静雄そっくりにして作られた月島と同じように臨也そっくりの外見に作られていて、彼の仕事は月島から受け取ったデータをウィルスがないかと検査することであった。
その為お互いの仕事がはかどりやすいよう月島と六臂の部屋はすぐ向かいに作られている。


「今日はまだ何もないです。」

返答を聞くと六臂は月島の部屋へとはいり、彼の髪をくしゃりと撫で微笑んだ。


「そう、なら今日は月島の部屋にいてもいいかい?サイケが煩くて堪らないんだ。」


本棚と必要最低限のものしか置かれていない月島の部屋はとても静かで、六臂はこうしてよく月島の部屋にやってくる。
月島の返答を待たず、六臂は月島の隣に腰をおろした。互いにあまり話すタイプではないため、部屋には月島が本のページをめくる音だけが響く。


…ああ、まただ。ふと、月島は胸の中で温かい何かが流れるのを感じた。
月島は時折六臂とこうして過ごしているととても温かい気持ちになり、その感情が何なのかがいまだにわからずにいた。
ただ彼がこの部屋に来、隣に座るだけでどうしても胸が高鳴り、温かくかくなるのだ。
自分の感情が不思議でたまらなくなった月島は、本を読むことで自分の気持ちを調べようとしていた。


「…何、読んでるの?」
「わっ、え、えっと…」


急に顔を近づけ、本を覗き込んだ六臂に月島は思わず声をあげ、困ったように唸る。しかし、自分よりも幾分も物知りな六臂ならこの不思議な感情の答えを知っているかもしれない、と恐る恐るくちを開いた。


「あの、ここが…温かくなるんです」

「…うん?」

不思議そうに首を傾げる六臂に自分の胸を指したまま、月島は続ける。


「毎日、おはなしするんですけど、そのたびに…笑ってもらったりするたびに心が温かくなるていうか…」


そこまで言ったところで、月島は六臂にそれを伝えることはなんだかとても恥ずかしいことのように感じ、俯く。
何を言っているんだ、俺は。六臂さんだって、こんなことわかるはずがない。きっとこれはバグなんだ。

ごめんなさい、と言おうと顔をあげた瞬間、身体をひかれ抱き寄せられる。


「ろ、ろっぴ、さん…?」

「ねぇ。それ、誰のことなの?」


真剣な表情で月島の頬に触れそっと撫でる六臂に思わず身体を跳ねさせ、緊張から目をつむってしまう。


「俺が、怖いのか?」


恐る恐る相手の表情をうかがえば、いつもはみたことのないような何処か悲しげな表情で問う六臂に月島は慌てて左右に首をふる。


「月島さ、俺の気持ち…しってるでしょう」

「え…」

「気づいてないなんて、ないよね?」


近かった顔がさらに近付き、整った六臂の顔が目の前にあるという恥ずかしさからまた目を閉じてしまう月島をくすりと笑うと六臂は月島の額に軽く唇を落とす。


「な、なにを……」


再び驚きから目を開いた月島は戸惑いながらもまっすぐな瞳で見つめながら問いかける。
月島の手を取った六臂は自分の胸へとその手を導き口を開く。


「俺も、月島と同じでね。俺は君といるとこうして胸がとても温かくなるんだよ。」

「お、おれもろっぴさんといると…」

「そっか。なら本当におなじだね」


優しく、優しく月島の髪をなでる。


二人はお互いの胸に手を当て、嬉しそうに微笑んだ。




二人が同じ部屋で生活を始める日も、遠くない。












運命の赤い糸様に提出させていただきました

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テーマ「人外ファンタジー」
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