八面六臂臨也、それが自分の名前だとマスターである臨也に告げられたのは何時のことだったか。
1人で臨也に与えられた仕事をこなす六臂は、ふと思い返していた。思えば、自分はあまり人と馴れ合いたいとは思わない。しかし、この世界とはいえ長い間1人で活動させられているのは何かしらの理由が有るのではないのだろうか。致命的なバグがあるのかもしれない、と。
ほかの六臂と同じように臨也によって作られたサイケ、デリック、津軽、日々也たちはそれぞれ仲良く活動しているのだ。
別に輪に入りたいわけではない。それでも、対……相方、恋人。そんな存在が彼らにはあって、自分には無いのが不思議であり、少し淋しかった。
同時に恐らく、自分にはそんな存在が出来ることはないだろうとも考えていた。
そんな時に、彼は現れた。
六臂がいつものように仕事をしていると、そっと自分のフォルダが開く音がした。
「すみません、マスター…まだ、終わってないのです」
「あ、あの…」
振り返らず仕事を続けながら言った六臂に掛けられたのは臨也の声ではなかった。
臨也の愛する彼の、あの声。
六臂は反射的に振り返った。そこには、蜂蜜色の髪をした、気弱そうな姿があった。
「…君は、」
「はじめまし、て。俺…その、月島って、いいます」
「そう…、」
六臂は、どう接すれば良いのかを理解していなかった。第一、なぜ彼…――月島が此処に居るのかも。
六臂が思考を巡らせていると、月島は静かに六臂の前に立った。
「六臂、さん。」
小さく呟かれた自らの名前に思わず目を見開く。
臨也にしか呼ばれたことのなかった名前。これからもそうなのだろうと考えていた名前。
優しい表情で、優しい声音で…どこか恥ずかしげに口にされた、自らの名前。
衝動的に、引き寄せた。
「っわ…!ろ、六臂さん…?」
「…ごめん」
「どうしたん、ですか?」
「うん」
「…あの、…?」
明らかに戸惑った声。だが拒否の色は混ざっていない。六臂は、はじめて他人の温かみを感じた。
「…月島、」
「っ、はい…!」
名前を呼ばれたのが嬉しかったのか、顔を綻ばせた月島に釣られ六臂も微笑み、髪を撫でた。
「…君は、なあに」
「俺は……」
六臂の仕事は、終わった。
臨也の孤独を、背負う仕事。
月島の答えに、六臂は静かに涙を溢した。
ああ、きっと俺は待ってたんだ。彼が来ることを。
「俺は………―――貴方を、迎えに来ました」
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