佐藤さんと日野君と悩み

「俺は挿れる価値もねぇのかなぁ藤枝君」
「そういう問題じゃないんじゃないかな」

溜息をついて藤枝君の机に突っ伏す俺とは対照的に、藤枝君は人差し指で眼鏡を押し上げて至極落ち着き払ってそう言った。藤枝君はいつも何にも動じなくてかっこいい。佐藤さんはもっとカッコイイ。、机に突っ伏している俺の頭を掌でぽんぽんと軽く叩いて撫でるのは、いつも俺の後ろの席の藤枝君の役目だ。何て優しいんだ君は!

「でも俺は佐藤さんが好きだ」「お前もお前で鈍感だよな」
「藤枝君、何か言った?」「何も言ってない」「そうか」
「ところで日野には挿れる価値が無いという話だけど」「うん」
「あるよ」「そうか」「そうだ」「ありがとう藤枝君」

「バカじゃねぇかお前等」

折角平和的に解決するところだったのに
トンカチが口を挟んできた
因みにトンカチはあだ名です。
本名じゃないです。お間違いなく。

「トンカチ空気読めよ。空気をお嫁にしなさいよ」
「そのあだ名やめろ!」「はいはい、考えとくよ」

だからあっち行って、しっしっと手を払うのにトンカチは退かない。本当にトンカチは昔から空気読めない。トンカチとは幼馴染だけど、空気読めないところは馴染めない。昔から馴染めない。全く馴染めない。だから机に突っ伏したままで顔を見ないようにしていたのに、トンカチが俺の首根っこを掴んで引っ張ったせいで机から体が離れる。ぐえ、って変な声が出た。さっき飲んだコーヒー牛乳が逆流しそうだ。

「大体22歳も年上なんてありえねぇよ」
「トンカチなんてあだ名の奴に言われたくねぇよ」
「名づけたのはお前だろ!」「うるさいよ」

俺にしてみればトンカチの必要以上に大きな声の熱弁よりも、紙パックに差したストローを吸えば出て来るコーヒー牛乳の方がよっぽど大事だった。でも流石空気読めない代表なだけあってトンカチはめげない。藤枝君は既にさめざめとした顔をしている。それよりも俺は佐藤さんに会いたいんだけどなぁ 。

「大体なぁ」

すっかり上の空で佐藤さんに思いを馳せる俺にトンカチがまた口を開く。トンカチは昔から大体が多い。そして大体その大体はあまり意味が無い。そう思って相変わらず軽い気持ちでコーヒー牛乳を啜っていたんだけど、直後にあまり聞きたくない言葉を聞いてしまってストローから口が離れた。

「その佐藤だかって奴もう40なんだろ?高校生より同世代の方がいいに決まってんだろ!」
「トンカチそれは禁句だよ」「真実じゃんか」「空気読めてないよ」

藤枝君が言い返してくれているけど何も言い返せなかった。トンカチにも何も言い返せなかった。離したストローを慌ててまた銜える。確かに歳の差がこれだけあれば話題も合わないしめんどくさいだろうさ。同年代の方がめんどくさくなくて気兼ね無く付き合えて良いだろうさ。でも、そんなきっぱり言わなくていいじゃんかトンカチめ。空気読め。俺としては男より女の方が良いってよりそれの方がよっぽど禁句なのに。

「俺帰る。先生には地球を救いに行ったって言っといて」
「あ、ちょ「分かった。しっかり地球防衛しろよ日野」

追いかけようとしたトンカチを捕まえて
藤枝君が俺を見送った。藤枝君、GJ


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