厄介なのに好かれたなぁと、まぁ、そんな風にしみじみ思う今日この頃を平々凡々と生きている俺です。何がとか誰にとか説明するのも面倒で、特に何の変化もない一見退屈に見える日常の気楽さを好んで17年生きてきたわけで。つまり、なんといいますか、要は面倒なことになったし厄介なことになったなぁってそれに尽きるわけであります。溜め息をつく、移動教室の途中の渡り廊下で。目の前には多分上手くいけば一生付き合わないで済んだ気がしないでもないタイプのオレンジに近い茶髪の派手なクラスメイトが立っている。というか立ちふさがっている。うん、あの、だるい。

「えー…あの、久保君」
「何」「次の授業遅れるよ」
「別にいい」「俺がよくない」
「それより返事は」「何の」
「俺がお前のこと好きって話の」

真っ直ぐな目を向けて躊躇いも無く発せられた声がしっかりと俺に届けられてしまっては目の逸らしようもなかった。派手な風貌の、所謂ヤンキーという種類に属する彼はまさしく真剣そのもので怖い。何かの罰ゲームにしては迫真の演技過ぎやしないかい。おおかた近くに隠れているコイツの仲間が俺の反応を笑っているのだろうと、一瞬だけ視線をさまよわせた瞬間勢いよく胸倉を掴みあげられた。怖い怖い、怖いって。

「ちゃんと答えろよ」
「いやいや…本気なのかなって」
「冗談で好きなんて言わねぇよ」
「久保君に好かれる要素ないし」
「要素とかそんなのわかんねぇよ」

アホ、と理不尽にも思える一言を呟いて指輪を幾つか付けた久保君の手が俺の胸ぐらを離す。ぐちゃぐちゃの皺になったYシャツと、様々な点で久保君によりぐちゃぐちゃに乱された俺の現状はよく似ている。Yシャツも多分俺に同情している。なのに何故だか俺はYシャツはさておき今までの勢いは何処へ行ったのか急に意気消沈した久保君にちょっとだけ、ほんの少しだけ心が傾いているのだった。飼っている犬を叱った後に残る罪悪感、まさにそんな感じ。久保君には黙っておく。殴られたら痛いから。

「久保君」「もういい」
「もう授業始まっちゃったよ」
「サボる」「俺もサボる」
「は?」「ついて来る?」

小脇に抱えた科学の教科書を丸めてぽんぽんと肩を叩きながら軽い気持ちで誘ってみたらあら不思議、久保君の顔に浮かべられていた不機嫌はみるみるうちに晴れていった。面倒くさがりな俺には珍しいというか、ほぼ初めてなんじゃないかしらって位の自分からの誘いがまさかクラスのヤンキーに使われるだなんて誰が想像しただろうか。俺ならまずしなかった。じゃあこれはなんだといったら、そうだな。犬を叱ったあとの罪悪感でつい犬を甘やかしちゃう良心、それに似た感情が発揮された。そういう感じで、よろしくお願いします。

「一緒にサボる」

向けられた笑顔がちょっと可愛く感じるだなんて、厄介だ。本当に厄介なことになった。それに尽きるね、まったく。




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