佐藤さんと日野君
「俺さぁ好きな人が出来たんだよね、その人は40歳なんだけど、」
カッコ良いんだと言われる前にそれまで興味津々に耳を傾けていた友人に「バカお前ありえねぇよ」とそれはそれは冷めた口振りで言われた。何がどこがありえないんだろうと負けじと言い返した俺に、その友人は呆れたように緩く首を横に振って溜息を吐き出した。俺はすっかり炭酸の抜けてしまったコーラの風上に置けないコーラを啜る。大量に投入された氷が水に変化したことによってやたら薄い味がする。俺にしてみれば友達の言うありえないより、こっちの方がよっぽどありえん。ガラガラガラガラ、悔し紛れにストローでカップのコーラをかき回す。するとその雑音に紛れて友人はやっぱり酷く冷静な口調で言うのであった。
「だってお前、18歳じゃん。歳の差22とかねぇべ」
あぁそうだった、俺はまだ18歳だった。
なんてこった。でも好きなんだよ仕方ないじゃないか。
結局ありえないという結論で無理やり終わらされた会話に未練を感じながら、今日の晩御飯のチーズバーガーとチキンナゲットが入った紙袋を抱えて歩く。(あぁなんてカッコイイんだろう)
「もう夜の10時だぞ青少年。夜遊びとは感心しねぇなぁ」
だらしない口ヒゲにだらしない立ち姿でやる気無い間延びした喋り方。どついたことを詫びるどころか、この上無く面白そうに笑っている大人のようで子供のようで、子供じゃなくてかと言って大人でもない。そういうところが好きだという意を込めて振り返って軽くどつき返す。長年道路工事に捧げて来たらしい体はやたらに筋肉質でびくともしない。オッサンでガテン系でヒゲとか一部マニアにしか好かれなさそうな風貌でもだけど、だって、どうしても、それでも、そうですね、つまりですね
「佐藤さん、カッコイイ」
「いきなり何だよ。あと、それ言われなくても知ってる」
鍵をドアノブに差し込んだままときめく
そのくしゃっとした笑い方は卑怯だ、卑怯です、佐藤さん。