バーナビー誕生日



(∵)バーナビーの誕生日

∴カリーナとバーナビー
「アンタ誕生日なんだって?」僕の首根っこを捕まえて呼び止めるなり問いかけてきた言葉はこれでもかと言わんばかりにぶっきらぼうで、少し不機嫌そうに見えたのは恐らく気のせいではない。絶対気のせいではない。「そうですけど」「アイツが嬉しそうに話してたの」「虎徹さんが?」「そうよ、そいつよ」不機嫌の意味を理解して笑いそうになるのを堪えて口の端にぐっと力を込める。虎徹さんは愛されている、沢山の人に愛されている。堪えている間に綺麗にラッピングされたお菓子を胸に押し付けられた。ずいと顔が近付いて、最初から最後までぶっきらぼう全開で彼女は言う。

「誕生日おめでとう、って言っておいてあげるわ」

例えラッピングされた手作りのお菓子がお菓子に見えない位焦げていても僕は笑顔でお礼を言う。どこまでも不器用な愛情表現な女の子だな、と思った。


∴キースとバーナビー
「おめでとう!そしておめでとう!」「ありがとうございます」肩を叩いて爽やかに笑うスカイハイさんの白い歯を見ながら軽く頭を下げる。嬉しいな、と思ったのも束の間「ハッピーハロウィン!」と言われてしまっては苦笑いするしかなかった。その爽やかさもあいまって、やはり苦笑いするしかなかった。その気持ちは後ろに隠してあった誕生日プレゼントを渡された数秒後に変わるのだけど。


∴ホァンとイワンとバーナビー
「誕生日おめでとう!」「あ、えぇと、おめでとうございます」元気に祝う声に続いてひっそりとした祝いの言葉を受けて微笑む。ホァンに手を引かれて僕の前までやってきた折紙先輩が差し出して来たのは小さく折り畳まれたカードだった。「これは?」「それは僕達からのプレゼント!」「肩叩き券です」「どういうチョイスですか」「僕はバーナビーさんは髪が長いから可愛いヘアピンがいいかなって思ったの」「僕はコレクションの手裏剣を、と思ったんですが…」「肩叩き券ありがたくいただきます」しっかりとカード券肩叩き券を受け取った途端に表情を明るくして笑い合う2人が微笑ましく感じた辺り、僕にも父性はあるのでしょうか、虎徹さん。

∴ネイサンとバーナビー
「あら色男、また一つ歳を重ねて素敵になったんじゃない?」「そんなことないですよ」「これは私からね、ここのスイーツ美味しいのよ」「あぁ、ありが、と…」白い箱を受け取ろうと差し出した手を引っ張られてそのままぎゅっと抱き締められる。女性のようで居て、でも男性な彼の胸は筋肉質で固かった。なんて言ったら怒られるだろうから黙っていた。

「アンタは去年までずっと後ろを向いて生きて来たわ。飽きる位落ち込んで、可哀想な位怒って、そうやって生きて来たわよね。正直何回ぶん殴ってやろうと思ったか分からないのよ。けど、どうしてかしらね。今はこうしてやりたくなったのよ。ねぇ、大丈夫だからね。幸せになりなさい。今年からはうんと幸せに生きてやるのよ。そんな一年にしなきゃ今度こそぶちのめしてやるんだからね」

最後に物騒な一言が付け足されたのが怖かったわけでも、筋肉が固くて痛かったわけでもなく、涙ぐんでしまった理由はどう説明したらいいんだろう。鼻声で伝えたありがとうは、あなたにちゃんと聞こえましたか。


∴虎徹とバーナビー
「よおバニー、トリックオアトリート!」最後の最後に現れた相棒は意気揚々と告げる。僕はケーキも焦げたお菓子も持っていたけれど、到底あげる気にもなれなかったので溜め息混じりに告げた。「お菓子はありますがあげません」「悪戯するぞ!」「いい歳して何言ってるんですか」本当に、もうと言わんばかりに両腕にプレゼントを抱えたまま僕が一瞬俯いた隙をついて虎徹さんが僕の眼鏡を取り上げる。低レベル過ぎて、呆れを通り越して笑えた。

「それが悪戯?」
「いや、さっき泣いたって言うから」
「泣いてなんか」「目赤いぞ」
「眼鏡返し「良かったなバニー」
「はぁ?」「嬉し泣き出来たな」

何を言ってるのか分からずに言葉に詰まってしまった僕に眼鏡を掛け直すとクリアになった視界の先にそれはそれは嬉しそうに笑う虎徹さんが居た。沢山の人に愛される彼は、優しく笑って僕の肩を叩く。

「もう辛ぇのも悲しいのもお前にはいらねぇんだよ。嬉し泣きする位幸せになって欲しいんだよ。今だけじゃねぇぞ、これからもずっとな。誕生日おめでとうバニー、産まれて来てくれて嬉しいぜ。お前に会えて良かった。本当に良かった。だからお前にはこれをやろう、ワイルドタイガー写真集だ」

受け取りたまえと押し付けられた写真集を拒否する気も起きない。折角クリアになった視界がまた濁る。そこでやっと、今、幸せで満ち溢れていることに気付いた。誕生日ありがとうなんて言える日が来るなんて思ってなかった。でも来た。最後にとんだ悪戯を仕掛けられたなと思いながら、僕は両腕で抱えているプレゼント達に涙を落とした。虎徹さんの合図に合わせて隠れていた全員が出て来て言う。ヒーローって案外暇なんだな。

「ハッピーバースデー!」





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