紫氷





「付き合ってるんだよな?」
「昨日付き合うって言ったじゃん」

一大決心でやっとこさの思いで投げかけた問い掛けは、何を分かりきったことをと言わんばかりの顔をした敦にあっさりと即答され沈んでしまった。昨日、といわれて思い出すのはこれまた一大決心で「好きだ」と想いを告げたらやはりこれも何を分かりきったことをと言わんばかりの敦にあっさりと即答された実に淡白なロマンチックの欠片も無い告白風景。受け入れられたと喜ぶより、流されたのではという不安ばかり漂うのはオレの性格の問題なんだろうか。サクサク進まない気持ちの整理に相反して、敦はサクサクサクサクお菓子をかじる。そうして食べかすの付着した指を舐めて首を横へと傾けた。

「やっぱり取り消したいとか?」
「そんなんじゃないよ」
「じゃあ何で確認するの」
「深い意味は無いんだよ」
「浅い意味ならあるの?」
「まぁ」「聞かせて」「え」
「付き合ってるんでしょ?」

冒頭と同じ質問を問われて、ハッとする。敦はこういう時のかぶせかたを変に心得ているから厄介なんだ。首だけ縦に動かして言葉での明確な返事をしないで済ませようという魂胆はどうやら、首を縦に動かした時点で見破られたようで頬に手を添えられたかと思えばくいと顔を上向きにされてしまった。敦と目が合う。

「キスでもしとけば安心?」
「あぁ、オレはキス好きだからね」
「すぐシちゃってもこの先飽きない?」
「飽きないよ、キスより敦が好きだから」「本当に?」「本当だよ」

質問をいくつか突破すると最終的に返事の代わりにキスをされた。柔い感触が触れたか触れてないかの緊張感溢れる未熟なキスだったけど、それでも良かった。ゆるゆると敦のカーディガンを掴んで俯いたまま、ゆっくりひっそりはにかむ。敦の手のひらがオレの髪に触れて流れるように落ちていってそのままオレを抱き締めた。「付き合うってこうやるの?」自信無さ気な声で問われて笑う。いいよ、いいよ。ちょっとずつ分かっていけば。時間は沢山あるんだし。ぎゅ、としがみついてみた敦の背中は予想以上に温かかった。子供体温なんて言ったら、潰されるかな。黙っとこ。



昨日までは必要無かった勇気 0802

 

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