紫氷




「子供が出来るわけでもないのにな」

全部終わったあとTシャツに袖を通しながら室ちんがぼそっと呟いた声をオレは聞き逃さなかった。真横の位置でベッド柵に凭れている室ちんのデコに汗で張り付いている前髪を指先で退かすと、隠されていた目が露わになってオレを見た。目を細めて笑う室ちんの顔はいつも優しいけど、今は若干寂しそうにも見える。室ちんの気持ちがよく分かんない。ずるずる、柵からどんどんずり落ちてほとんど横になる体勢になったオレをしっかりと柵に背中をくっつけたままでいる室ちんが見下ろす。腕を伸ばして頬に触れたらすり寄ってきた。アラ、アララ、可愛い。

「今のってどーゆー意味」
「今のって?」
「子供がどうこうってやつ」
「そのまんまの意味だけど」
「エッチしたくねぇってこと?」
「はは、違うよ」
「意味わかんねぇし」
「拗ねない拗ねない」

頬に触れた手に手を添えて思い切り子供扱いされるのにはとっくに慣れたし、嫌でもないから口を閉じておく。すると室ちんの方から口を開いた。相手に喋らせたいときは自分は黙っておけばいいらしい。うん、勉強になった。

「子供が出来るわけでもないのに男同士でセクスする意味ってなんなんだろうってさ」
「意味なきゃしちゃ駄目なわけ?」
「そういうわけじゃないけど、たまーに気になるんだよ。で、今がそのたまーにのたまーにだっただけ」
「ふーん」「敦には難しいかな」

あ、あ、今のは駄目。カチンと来た。空いてる側の手をベッドについてぐぐっと起きあがらせて再び室ちんの隣に並ぶ。もう片方の頬に触れたままの手はそのままで、言いたい言葉を探しながら話す。今度は室ちんが黙った。至近距離でじっとオレを見る。

「よく分かんないけど、子供が出来るとか出来ないとか関係なくなる位好きだから流れでもムラッと来たからでも何でもシちゃったら駄目なの?別にいいじゃん、子供が出来るとか出来ないとか女とか男とかどうでも。そーゆーの、めんどくせーし。オレ室ちん好きだし、悩まれたら嫌だし、好きだからシてることに意味ねぇとか意味あんのかなとか言われたくねぇし、それに」

「もういいよ敦」
「でも「ごめんな」
「謝んなし」「あ、ごめん」
「ほら、また」「何て言おうか」
「今思ってること言えば?」
「じゃあ、オレも敦が大好きだよ」「もう悩まない?」「きっとね」
「何それ、超曖昧」
「たまにまた悩んで敦に助けてもらいたいからさ」
「甘えてんの?」「きっとね」
「仕方ないから甘やかしたげるよ」
「ありがとな、敦」
「どーいたしまして、室ちん」





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