紫原と氷室



「だるっ」

思ったことを言えばいいものではないとよく言われるけど、そりゃもう鬱陶しい位言われるけど。思ったことを我慢する意味が分からないし、だるいものはだるいんだし要はだるい。みんながだらだらと汗を流しているむさ苦しい空間から逃げ出したくて一人体育館の隅っこで新発売のチョコレートがかかった棒状のクッキーをかじる。ありきたりなつまらないバリエーションも何もない練習より、食べてる方が楽しい。色んな味があるし、あまりオレを裏切らないのもこっち。早くも4本めのクッキーに手を付けようと袋に指を突っ込んだ瞬間、背後から伸びてきた手がオレの髪に触れた。ぐしゃぐしゃ、乱すのは好きだけど乱されるのは専門外だよ。そこら辺わきまえてくれないかなぁ。

「室ちん、背後から奇襲は卑怯ー」
「練習サボる敦はどうなんだ?」
「アララ?オレは特別ってしらねーの?」

分からないなら教えてあげようか、その言葉を喉から出そうかどうしようか迷ってる間にさえ室ちんは相も変わらずオレの髪を手のひらでぐしゃぐしゃと撫で続けている。分からせてやる前に、オレが知りたい。何したいのコイツ。首を後ろに傾けてオレの背後のベンチに腰掛けてる室ちんの膝に頭を乗っける。いつも2メートルの高さから他人を見下ろしてばかりのオレには、誰かを見上げるのはかなり久しぶりだった。っていうか、何だかんだで初めてのような、そうでもないような。まぁいいや。室ちんは目を細めて笑っている。指に髪を絡めて、ニコニコしている。あらやだ、彼氏?

「ご機嫌だねー室ちん」
「いつも敦にやられてばっかだからな」
「話が見えねぇしよくわかんねぇし」
「いつも見下ろして、頭わしゃわしゃして、優位に立たれてばっかじゃあつまらないからなって話だよ」
「…オレが負けたみたいで嫌だなぁ」
「バカだな、勝ち負けじゃないよ」

髪を指から解いた室ちんの手が真上からオレの頬を挟み込んでくる。なかなか苦しい体勢だけど、耐える。見上げるのもたまには悪くはないかな、そう思えている奇跡になら多少の我慢はしてやってもいいと思えたからね。頬に触れている手に手を重ねる。室ちんは飽きもせずに笑っていた。あぁやだ嫌だ、その顔にオレは弱いのよ。

「勝ち負けじゃなくて、ただ、なかなか体格的に誰にも甘えられない敦を甘やかしてんだよオレは」

「やっぱり負けてる気ぃすんなぁー」
「だから、違うって」




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