ベポとロー(海賊)



夏島に上陸するとまるで恒例のように海で水遊びを始めるのがハートの海賊団だった。キャプテンは騒がしいのは嫌いだけど、楽しむことは悪いことじゃないと言って笑っていた。キャプテンはああ見えて、優しい。人の楽しみを否定しないって点は勿論だけど、それ以上に自分は能力者で海で遊ぶ海賊団をあげてのその楽しみに参加出来ないのにみんなに楽しむのをあっさり許してしまうところが優しい。のしのし、砂を踏んでパラソルの下で横になって医学書を読んでるキャプテンに近づく。首筋にじんわり汗をかいていた。暑そうだとは言わない。実際暑い。

「そんなに暑いなら帽子、脱いだらいいんじゃないのかなぁキャプテン」
「じゃあお前もその毛皮を脱いだらどうだベポ」
「出来ない」「おれもだ」
「そっかぁ」「そうだよ」

ふふ、短く笑い声を洩らすキャプテンの目の下には相変わらず濃いくまがあって、おれは白クマで、それはさておきとやっとこさ本題に入る。キャプテンは本が好きだけど、このままじゃきっと楽しくない。パラソルの下は快適だけど、楽しくない。あくまでも予想ですが。爪を引っ込めた手でキャプテンの手を取る。キャプテンはきょとんとした顔でおれを見た。その顔結構好きだよ。

「キャプテン、砂山作るの手伝って」
「………」「駄目かなぁ」
「やるなら完璧にだぞ」
「アイアイ、キャプテン!!」

仕方ねぇなぁ、そんな態度を取りながら自らパラソルの下に出て行くキャプテンについて行く。しゃがんでお互いにせっせと砂を盛る作業はなかなかどうして嫌いになれなかった。刺青だらけの柄の悪い手と毛まみれの手で砂山を作る画はなかなかシュールで笑える。けど、キャプテンは真剣そのものだったからやっぱりせっせと砂を盛るしかないんだよね。砂浜に埋まっていた壊れ掛けのバケツに水を汲んで、時々上手く固まらない砂を上手にくっつける様子が何だかキャプテンに重なって見えた。砂に混じったガラスの欠片が太陽に照らされてキラキラ光っている。

「キャプテン指切らないでね」
「善処する」「する気ないね」
「ビー玉か何かあればいいのに」
「キャプテンは砂遊び上手だね」
「ベポはクマだから下手くそだな」
「クマですみません……」
「でもお前は優しいクマじゃねぇか」

言ってすぐにはっとしたような顔をして、取り繕うようにとっくに上手に固まった砂山をポンポンと叩いてるキャプテンは実に分かりやすい。敢えて口を閉じたまんま続行する砂山作りに没頭した。そうして時間と熱意を費やしたおれとキャプテン作の砂山はぎりぎり日が落ちるちょっと前に完成することとなる。トンネル、ビー玉を転がすコース、指で描いたハートの海賊団のマークは歪んでしまったなりに上出来だ。なかなか豪華な砂山だねと笑うおれに、まぁまぁだなと手から砂を払い落としてクールを装いながら隠し切れてないキャプテンは何か、本当に、まぁいいや。
因みに後日その砂山の前を通ったら無かった筈のビー玉が何個も砂浜に落ちて、砂だけだったはずの山が大きめに割れたガラスや貝殻で飾られて、てっぺんには手作りのハートの海賊団の小さな旗が刺さっていた。クルーのみんなは「内緒だぞ」と笑う。キャプテンは愛されてますね、お熱いことで。毛皮が脱げるなら脱ぎたいよ。


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