カシアリ(マギ)




がぶがぶといえば可愛らしいけど、実際にされていることはむず痒いような痛みを伴うから嫌いだった。背後から肩の辺りに当てられる歯にぞくぞくとしたものが込み上げる。カシムの考えていることはよく分からない。煙草の匂いと香水の匂いが混ざって何とも柄の悪い匂いを作り出していた。色々なものからの逃げたさに口元を覆っている手を後ろ側から掴まれてしまえばもうどうしようもない。カシムの考えていることは本当によく分からない。ただ唯一知ってるのはがぶがぶ噛まれて痛い筈なのに、嫌な筈なのに、勝手に唇の隙間から逃げていく息や微かな声を隠されるのをカシムは嫌いだってこと。それってつまり、さ。

「このむっつりサディスト」
「うるせぇ、がっつりマゾヒスト」
「いだっ」「悪ぃ悪ぃ」

がりっ、食い込んだ歯に声を上げれば何ともやる気のない謝罪が返ってくる。相変わらず背後に居てひっついてるカシムはその反対側で俺が涙目でいることなんて知る由もない。知ろうとさえしない。愛なんてない、かと思えば肩に滲む血を舌先で舐めてくる。お前は野生の動物かよ。飼いこなすのが難しいっていう点ではあながち間違ってないかな。ちゅ、頬に唇が触れる。

「くだらねーこと考えてんだろ」
「たまには俺がカシムを噛みたい、とか」
「やだよ、お前みたいに肉ねぇし」
「禁句!」「へーへー」

すみませんね、またしても無重力で無気力な謝罪を受けたけど今度はぎゅうと縋るみたいにして抱き締められたから黙っておく。野性的な甘え方、どうにかしろよ。肩がひりひり痛む。指で付いた歯形をなぞる。指先に付着した微量の血液に何故か込み上げる笑いの意味の名前はやっぱり愛情なんだろうか。マゾって怖い!




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