カシアリ(マギ)



:)カッコイイ人

「よし来い」

相談があるんだけど、と切り出した俺にカシムは煙草を口にくわえたまま自分が横になっているベッドの目の前に敷いてあるクッションを叩きながらそう言った。犬や猫をおいで、と招く動作にすごく似ていることは敢えて気にせずにクッションに腰掛ける。ベッドの上で頬杖をついて煙草をふかしながら、それでも視線は真っ直ぐ俺から外さないで居るカシムはちょっぴり、ほんのちょっぴりだけカッコイイ。目つきは悪いけどこういうところが優しいんだよな、しみじみ思っているのを遮るようにカシムに力加減無しに鼻を摘まれる。アリババ君に10のダメージ!

「いだだっ、痛い痛い!」
「相談あるんじゃねぇのか」
「だ、だってよ!カシムが」
「俺が何だっつーんだよ」
「カシムが、真面目だから」
「…………お前さぁ」

一瞬目を丸くしたあと、呆れたように吐き出された溜め息と一緒に煙草の煙も混じっていて噎せる。煙草の苦い臭いは鼻に纏わりついたら暫く離れないから嫌いだ。涙目になって見えもしない臭いを振り払おうと必死になる俺にカシムは喋る。ずけずけと喋る。煙草から今にも落ちそうな灰がギリギリのところでベッドのシーツでは無く灰皿に落ちた。そもそも、これだけ吸い慣れてるカシムが今更シーツを焦がすなんて失敗するわけがなかったんだよ。ひっそり安心する最中もカシムは喋っている。

「相談があるっつーのにへらへら不真面目に構えるわけにゃいかねぇだろう」
「あぁ、違う、そうじゃなくて」
「あ?」
「カシムがカッコ良く、て」
「は?」

カシムの指先に挟まれ損なった二本目の煙草がシーツに落ちたみたいに、ポロリと本当に極自然に口から落ちた数秒前の俺の言葉が今更になって恥ずかしくなって頬に熱が集中する。違う、違う、そうじゃなくって!ベッドの縁に掴まりながら弁解、でも、カシムがそれで了解する筈も無かった

「違う!変な意味じゃなくて!ただ、カシムはいつも何でもしんどそうにするし、実際かなりめんどくさがりだし、常に煙草ふかしてて話なんか全然聞いてなさそうなのに目はずっと俺んこと見ててっ!ちゃんと見てて、めんどくさがってなくて、それでっ」

「それで?」「え」
「それで何?」「あの」
「ん?」「……かっけぇ、です」
「はは、そりゃどうも」

煙草大好きなくせに、煙草を拾わず真っ直ぐ寄り道しないで俺まで伸ばした手で俺を引き寄せて唇にキスする。煙草は苦い、カシムの香水は甘い、クラクラした。クラクラついでに相談ごとはどっか行ってしまった。ちゅ、ちゅ、何度も何度もキスを繰り返したあとに少しだけ顔を離して低い声音でやっぱり目を逸らさずに俺に問うカシムに心臓止まりかけた。勘弁してくれよ、乙女じゃあるまいし。

「確かに俺はめんどくさがりだけどよ、一度でもお前の言うことややることをめんどくさがって無視したことあるかよ?」
「無い」「だろ?」「おう」

満足したときにだけ見せる無邪気な子供っぽいカシムの笑顔が好きだ。次に相談するなら、そのギャップについてにしよう。それしかない。今はシーツに転がったまま放置されている煙草に優越感を感じているから、黙っておくけどさ。

 

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テーマ「人外ファンタジー」
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