オデン



:)お腹減ったね

気付けば2人きりだった。こうなることは今の今まで一緒に会議をしていたチャンピオン、四天王、ジムリーダー達が会議室から出て行ったときから分かっていた。飲み会の会場に移動する仲間達について行けば今現在の無言の気まずさを味わうことなく済んだことも。大人数用に作られた会議室に対して2人という少人数はあまりに大きく、その広いスペースいっぱいに広がる何も言わないでいるデンジの威圧感もこれもまた大きいものだった。何気ない咳払いすら響く。ちらり、盗み見た先のデンジは無表情で椅子に腰掛けたまま動かない。青色をした目は開いているのに何も見ていない。分かってる、俺はちゃんと分かってるんだぜ。伝えるべくして口を開く。

「お前、腹減ってんだろ」
「死にそう」「やっぱりな」

ずるずる、やっと正直に気持ちを俺に伝えたところでパイプ椅子からずり落ちていくデンジの腕を掴んで雪崩を止めた。背もたれに頭をくっつけて、長い脚を放り出した格好のまま動かないデンジの体勢がだらしない。脚を開いて座る俺もまただらしない。お互いにお互いを指摘したりはしない。

「飲み会、始まったかな」
「行けば良かったのに」
「デンジを置いて行けねぇよ」
「置いて行けば良かったのに」
「だってさぁ」「あん?」
「お前、2人きりの方が安心するじゃん」

俺はデンジの腕を掴んだまま、デンジは掴まれた腕を振りほどかないままで固まる。数秒後に繰り出される可能性が高いキック或いはパンチに備えて軽く身構えるが、デンジが繰り出したのはどんなに身構えても仕方が無いような攻撃だった。動揺にパイプ椅子が軋む。錆びたパイプはやけに大袈裟な音で軋むから嫌いだ。

「よく分かってるな」
「認めんのかよ、ビビるわ」
「好きだよ、オーバ」
「お前、何を企んで…」
「僕ラーメン食べたいよオーバ君」
「やっぱそういう魂胆かてめぇ」

笑いながらどつくと、デンジも笑いながらどつく。とうとうパイプ椅子から落ちたデンジをしょうがねぇなぁって言いながら引っ張り上げて、両足でくすんだ色をした床を踏んでしっかり立ち上がると同時にハグをしてみる。デンジは拒否しなかった。これが空腹の力なのか、妥協なのか、何なのか俺は分からない。キスをしたら髪を鷲掴みされて引っ張られたので、デンジはまだ正常だとは思うけど。けど、けど、あぁでも、すぐにデンジからもキスをしてきたことを考えると異常かな。こんがらがって来た。まるで俺の髪みたいに。

「腹減ったな、デンジ」
「さっきも言ったけど死にそう」
「味噌ラーメンに限るよな」
「塩だろ」「は?」「あ?」
「楽しいねデンジ君」
「そうだねオーバ君」

パイプ椅子を畳んで隅っこに寄せて2人では持て余してしまった会議室を出る。空腹に耐えきれず鳴り出した腹をさすりながら歩き出してから気付いたことが1つ。俺、デンジのことが大好きだ。今更こんなことしみじみ感じてしまうあたり、異常をきたしているのだろうか、歳なのだろうか。俺が今自信をもって言い切れることが1つ。ラーメンは味噌だろ。どう考えたって、味噌だろ。



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