クダノボ



(∵)機嫌とり

「あっちへ行ってくださいまし」

いつも機嫌が悪そうに見えるノボリはそう見えるだけで決してそんなことはなく穏やかな心の持ち主だけど、今日みたいに機嫌悪そうに見えて本当に悪い日もある。分かりやすいようで分かりにくいノボリっていう人間は、同じ顔をしていうのもなんだけど分かりにくくてお手上げだ。きっと、ぼく以外ならね。にこっと笑いながら向かい側の椅子に座っただけで顔を逸らして冷たく吐き出すノボリにぼくはめげない。他の職員はここでめげてしまうのが敗因なんだよ。キャスター付きの椅子をぎいぎいと鳴らし左右に回転しながらノボリに話し掛ける。

「にーらめっこしましょ」
「しません」
「あっぷっぷー」
「面白くないです」

両手で顔を潰して定番の変顔攻撃は案の定ノボリには何の効果もなかった。でもぼくは大満足。にんまり笑って椅子から立ち上がってぽんぽんとノボリの肩を叩くと、ノボリはびっくりしたみたいな顔でぼくを座ったまま見上げた。くすっと笑って一言告げる。手袋を履いてない手をひらひら振った。休憩時間終了のベルが鳴るのはもうじきだ。

「ノボリさぁ、機嫌悪いと誰にも絶対口きかないしぼくには何だかんだで口きくよね。そういう素直なのか素直じゃないのか分からないところ、すっごいめんどくさい。でもすっごい好きだから、やっぱり構っちゃうんだよ。何があったか分からないけど機嫌直してね、お兄ちゃん」

「…何なんでしょうこの敗北感」
「さぁね」

さぁ働けとばかりに鳴り響くベルに踵を返してドアの外へ。やれやれ、お兄ちゃんをあやすのも楽じゃないね。本当に。



 
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