オデン



:)困ったちゃん

これが気のせいでなければ、現実なんだろう。記憶が正しければ仕事に出掛ける前確かにこの口で留守番を頼んだ筈のデンジが駅の柱に凭れている。あれ、ここ家だっけ?そんな無理矢理な暗示は案の定あっさりすぐに解けてしまった。だってここ、駅じゃん。俺ん家じゃないじゃん。さて、どうしたものか。立ち止まったままでいる俺に気付いたらしいデンジが柱から背中を話してこちらに歩いてくる。ゆらゆら手のひらを揺らして、ノーテンキに。やめなさいって、ついつい応えそうになるでしょーが。

「何で無視すんだよ」
「何で留守番してねんだよ」
「えーだってぇー」
「その口調やめろ可愛くない」

指摘するとあっさりやめて気だるげに頭を掻くデンジは本当に正直な男でほんの少しでも自分を繕うという行為を知らないし、しない。言い訳もしない。正直というより繕ったり誤魔化すのが面倒だというのが本音なんだろうけど、いいよ。まずそれはいいよ。咳払いしてデンジを見る。デンジの青い目も俺を見る。視線がぶつかった。

「留守番頼んだよな」
「まぁな」
「ここ駅だよな」
「そうだな」
「何してんの?」
「あ、そーいうこと」

成る程ねとでも言いそうな勢いで俺からの言葉を受け取って、デンジがポケットから取り出したのは俺が渡していたアパートの合い鍵だった。コリンクのマスコットに付いた小さな金色の鈴が鳴る。今更だけど、可愛いもん付けやがって。いや待て、そこに流される俺じゃない。流されて堪るもんかとぐっと靴の中に隠れた爪先に力を込めてみちゃったりして、人知れずしっかりちゃっかり努力してみたりしたってのに。なのにそんな、こんな。それはデンジの青い目が俺を捉えたまま告げられた。

「留守番好きじゃないから迎えに来た」

好き嫌いですか、そーですか。文句を言う気も失せた。何故?デンジに文句を言われる気が無いからだ。じゃあ言ったって意味ねぇじゃん。軽く脱力しながら、はああと息を吐いたあとデンジの肩を叩きつつ「お前はそういう奴だよな」とお決まりの台詞を呟いて歩き出す。デンジは何も言わなかった。少し鬱陶し気に目を細めても、肩に当てた手を振り払いもせず横を歩いている。一歩踏み出して駅では無く外に切り替わった世界は所謂晴天で気分がいいし横にはデンジがいる。思い切って誘ってみよっかな。そうしよっかな。

「デートしに行く?」
「ラーメン屋行こうぜ」
「色気ねぇなぁデンジ君」




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