クダノボ



:)口内炎

「どーしたの?」

口の中に出現した違和感の本体を舌で転がすわたくしの顔をわたくしと同じ顔でひょいと覗き込むクダリはいつもと変わらない笑顔で問いかける。間延びした幼く聞こえる口調が年甲斐にもないとか、人によっては軽く見られるだとか、そういった一般的常識で考えたり押し付けたりすることはどうやら全く無駄なようなのでもう敢えてそこに触れることはやめてしまった。代わりに深くため息をつく。心配されようが、気にかけられようが、舌で転がそうが決して消えて無くならないこの不快な存在感にほとほと愛想が尽きていた。わたくしは、嫌いなのです。邪魔されたり阻まれたりすることが、本当に嫌いなのです。そもそも口内炎という名前をしている時点で、何かもう。何だかもう。

「口内炎が出来てしまったのです」
「舌でいじったら尚更大きくなっちゃうんだよー」
「気になるものは気になるんです」
「治し方教えてあげよっかー?」
「何か良い方法を御存じなのですか?」
「キス!」「さぁ仕事の時間です」
「ちょっ、ちょ!ストーップ!!」

素通りを決め込もうとドアに向かおうとするわたくしの腕を掴むクダリの力は口調は幼いにしてもやはり成人済みの男性で、つまり、それなりに強い。あっさりと引き止められて振り返るわたくしを張り付いてるのか作っているのかも分からない笑みで見つめるクダリに思わず少したじろぐ。嫌な予感がした。察知して全身が粟立つ。予感が的中したと実感したのはクダリがコートのポケットから先の細いボールペンを取り出してわたくしに向けたその瞬間。あぁ分かる、分かる、何を考えているのかありありと。

「ク、クダリ…何を……」
「潰しちゃえばいいんだよ、口内炎」
「何を馬鹿なことを」
「爪楊枝とかの方がいいんだけど持ってないからさぁ」
「想像するだけで気絶しそうなこと言わないでくださいまし」
「はーい、口開けて」「ひっ…ちょ、待っ…!」
「逃がしてあげない」「クダリ、落ち着いて!」
「え、無理」「この人でなし…!」

ぎりぎりと手袋越しにお互いの手を掴んで押し合って、一体わたくしたちは何をしているのでしょうか。若干押され気味なこの体がクダリに倒されるのは時間の問題で、焦る。クダリは余裕の笑みを浮かべていた。常に浮かべている笑みよりもさらにも増して余裕綽々な笑みをずうっと浮かべていた。同じ顔をして、なんということ。こんな意地の悪い弟と血がつながっているなんて、そんな。より一層普段からのしかめっ面をもっと顰めたわたくしの顔すら笑う。どうなんでしょう、兄としてこの扱いは。

「嫌だったらちゅーさせて?」
「断ったら?」「口内炎もノボリも潰す」
「…!!」「人でなしはもう聞き飽きたよ」

だから、ね?そう言って問答無用で塞がれた唇の隙間から侵入して来た舌が口内炎をべろりと舐めて辺りが痺れ始める。最早サディスティックに占領されたクダリに対抗する術はもう何もなく、ただひたすら耐えるだけ。未だに握りしめられたままでいるボールペンに怯えるわたくしをどうせ、あなたは笑うのでしょう。知ってる。





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