ミナマツ




(∵)冬といったら

冬といったら鍋だろ、鍋。ミナキ君は思い立ったように唐突にそう告げるとぼくに外出の準備をするように言った。当たり前だけど、ぼくに拒否権は無い。ミナキ君とはそういう人間なのだった。分かっているから黙って上着に袖を通す。玄関の扉を一枚抜ければそこはあっという間に一面の雪に覆われた冬の世界だった。ここにはもうストーブも炬燵も何も無い。なんて名残惜しいんだろう。ちらちら、後悔と帰宅願望に背後の扉を未練がましく振り返るぼくを「女々しいぞ、マツバ」と叱りつけて雪の上を引きずるように歩き始めるミナキ君の背中は頼もしいけど、頼りにしたくないや。ぼくはぬくぬくしていたいよ、炬燵でみかんが食べたいよ。それこそ指が黄色くなるまで。なかなかどうして分かってもらえないもんかね。息が白い、つまり寒い。

「鍋と言えば鶏肉だよなマツバ」
「ぼくは魚がいい」
「鶏肉も魚も入れたらいい」
「世界観を大切にしようよ」
「この話題で世界を語るか」

マフラーの中に隠した口で言い返した言葉に軽く笑いながら答えるミナキ君は心なしか楽しそうに見えた。雪が降ったら喜んで庭を駆け回るタイプかな、なんて思ったりして。ひっそり犬に例えてやってみたりする。ミナキ君は未だに鍋における鶏肉の素晴らしさについて語っている。そのうちそもそも鶏はな、と語り出すに決まっているので心の準備をしておこうか。冬といったら鍋だろとミナキ君は言うけど、ぼくに言わせれば冬といったらミナキ君のしょうもないうんちくを聞かされながらこの寒い中一緒に鍋の材料の買い物に行かされる今のことを指すのだった。だから今、冬が来たなぁとしみじみ思う。帰って炬燵に入りたいと心底思う。なのに、それ以上に、拒否しないで居る辺りぼくは本当にミナキ君が好きなんだと思う。人間ってややこしい。

「聞いてるかマツバ」
「鶏は何で朝鳴くかって話?」
「違う!」「はは、ごめん」

ミナキ君が地団駄踏んだ雪が、ミナキ君の靴の形にへこむ。得意げに語っていたかと思えば、今度は形に残る位の子供っぽさを見せる君がぼくは本当に、心から愛しいよ。息が白い、でも気持ちはあたたかい。



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テーマ「人外ファンタジー」
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