クダノボ



(∵)小説みたいなキス

ふと、紐を引っ張ったら電気が付くみたいにして思い付いた。そうしたらビックリする位自分の欲望に正直な僕は小説みたいなキスがしてみたくって堪らなくなった。うずうずして、居ても堪らなくなって膝の上に置いていた小説を閉じて横で読書に耽るノボリの唇を塞いだ。ばさり、ノボリの手からすり抜けて電車の床に落ちた小説が床潰れている。けど僕は、それより。行き場に迷っていたノボリの手が僕の体を押す引力を無視してキスを続ける。並んでいた文字に習って唇の隙間を舌でなぞり、その隙間から舌を入れて中をそおっと舌の先で撫でた瞬間に今の今まで抵抗していたノボリの体がびくびくってしたのを両腕が感じ取った。けど、だけど、僕はそれより。直後その焦りは無駄になった。わざわざ探さなくても僕の舌にノボリの舌が自ら絡まって来た。ぬるぬる、れろれろ、意味も分からないでその場の勢いで舐め合う。散々舐めて、舐めて、飽きた頃に唇を離した。ノボリの体が座席から床へ落ちる。いつか床に落ちて潰れた本を追いかけるみたいに。僕は座席に座ったまま、膝の上に頬杖をついて楽し気にノボリに話し掛けた。

「床が好きなの?」
「誰のせいで、こんな」
「読書の秋なんだもの」
「だからって、こんな」
「官能小説って楽しいね!」

あはっ、極力無邪気に笑ってみせるつもりがノボリはそっぽを向いてしまった。官能小説によるとこれから押し倒せばいいらしい。手を伸ばして、肩に手をかける。振り返った同じ顔に同じ顔を近づけて僕は言う。諦めさせるべく僕は言う。

「読書のあとはお腹が空くんだ」

いただきます、その言葉と一緒に床に倒されたノボリ兄さんはいよいよ床に落ちた小難しい小説と同じ末路を辿ってしまった。許してね、ごめんね。お腹が空いてたら文字も読めなくなるのが、人間ってもんだからさ。




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