オデン



:)程度を知れ

いつだったかデンジと喧嘩をしたとき「大体お前には愛が足りない」と言い放ったことがある。だからだろうか、俺はキッチンのテーブルの前で15分程考えている。テーブルの上には手作りと思われるナポリタンスパゲティが丁寧にラップをかけて置いてあった。俺のアパートに出入り出来るのは俺とデンジ、悲しいかなたったのニ択で済んでしまうので必然的にこのナポリタンスパゲティはデンジが作ったことになる。だって俺、ついさっきまで仕事してたし。組んだ腕をほどいて皿を持ち上げてみた。皿の底はまだ熱を帯びていて、手のひらに熱がじんわりと伝わるのが分かった。ナポリタンに散りばめられた玉ねぎはかなり雑に刻まれ、ピーマンの種を取らなかったのだろうか麺に白い粒が絡まっている。割愛してはならないものを割愛されたワンプレートに仕上がっていると思うと少し食欲は失せたが、運が良いのか悪いのか腹が減っているので引き出しからフォークを取り出してテーブルにつく。そしてラップの薄いビニールを剥ぎ取り、今まさにケチャップの赤い中にフォークを突き刺そうとしたところでデンジが風呂場から上半身裸で出て来た。ぼたぼた、水を滴らせながら歩いて来るのはやめろとあれ程。上半身裸じゃなくてちゃんと服を着なさいとあれ程。言うのも面倒で、黙っていた。代わりにピーマンの種ごとフォークにスパゲティを巻き付けながらデンジに話し掛ける。

「これ、お前が作ったのかよ」
「おう」「雑だな」
「喧嘩売ってんのか」
「嘘だよ」「あっそ」

お互いにお互いを一言で片付けて俺はスパゲティを食べて、デンジは俺の隣にどっかりと腰を掛けてビールを瓶ごと飲んでいる。ヤンキーはこれだから嫌なんだ。歯に引っかかる種特有のグニグニした感触をお茶で飲み干す。こうなれば錠剤と一緒だ。不意に視線を感じて隣を見る。青いなぁと思ったら、デンジの目だった。そんなに見つめるなよ。ティッシュで口の周りのケチャップを拭き取る。俺は女子か!

「オーバ、美味ぇ?」
「うん。デンジも食うか?」
「ピーマンの種食う趣味はねぇ」
「わざとか!わざとかこれ!」

問いただすように声を荒げてやったのに、途端に笑い出されたら怒りも薄れる。デンジの笑い声は酒臭い。ビール瓶が電球の光を受けて光っている。「お前が俺には愛が無いとか言うからさ、わざとピーマンの種大量に入れたんだよ。こんなもん食べれねぇって残すだろうから、お前にだって愛が無いじゃねぇかって言ってやろうとしたんだよ。なのにさ、ははっ、お前食ってんだもん、あははっ。腹の中にピーマン生えたらどうすんだよ、はは、あー苦しい」

「俺には愛があるってことだよ」
「俺にもあるよ」「嘘つくな」
「嘘じゃねぇよ」

だって俺オーバが大好きだよ。告げる声も、密着する唇も、全てが酒臭い、胡散臭い。ヤンキーには食事中も何も関係無いようだ。元ヤンの俺には分からなくもなく、しかし分かりたいことでもないことで、せめてもの意地で握ったままでいたフォークを取り上げられてしまった。上半身裸で、下にスウェットだけ履いた脚がいやらしく伸びて来る。お前は痴女か!

「お前にはピーマンの種で種付けしたから、次は俺の番な?」
「何の種がいい?玉ねぎ?」
「お前の精子に決まってんだろぉ」

何かの弾みでビール瓶が倒れた。濡れたテーブルが電球に照らされて光って、ビールのアルコールを含んだ苦い炭酸が弱々しく弾けている。デンジの舌を舐めると案の定苦かった。お前の愛情表現はさ、疲れるよ。お前が俺を愛しているのはさ、分かったよ。だからさぁ、

「程度を知れよ」「無理」


 
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テーマ「人外ファンタジー」
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