シャルロット番外編 | ナノ


▼ 紅茶に隠して

トントン、トントンと書類を机に叩いて揃える音が応接室に静かに響く。
ディルトが纏めた書類を、ドルチェが受け取り、また整理しファイルに保存する。
という……なんとも不毛なやり取りを繰り返していた。

「なんだか意味が無いな……」

ディルトが苦笑しながら言うと、ドルチェは手を止めた。

「では、マスターは手を出さないでください。逆に捗りません」

眉根を寄せながらぶっきら棒に言うドルチェは、椅子に浅く腰掛けるディルトを横目でじろりと睨んだ。
今までのお客の簡易的な情報を纏めた書類も、ディルトの手にかかれば日付はバラバラ、悪ければ紛失という事態になってしまう。
ドルチェが手を出さなければ、どの必要な書類も必要な時に出てこない。
それ程ディルトの片付け方は酷いものだった。

書類が机を叩く音が止み、ひと段落したのか、ドルチェが一息ついた。

「この書類を纏め上げる前に……触らないで下さい」

今現在整えた、いくつかの書類の束を指差しながら、ドルチェは淡々とした口調で言った。
が、その中には怒気が僅かに含まれていた。
念を押されてディルトは、お手上げだと両手を肩まで挙げたポーズをする。


「そろそろ紅茶を入れますね」
その言葉を聞いたディルトが目を輝かせた。

「丁度私も飲みたいと思っていたところだよ」
ドルチェに知っていますという表情をされてしまい、ディルトは苦笑した。
ドルチェはディルトの紅茶の趣向を理解しているので、今何が飲みたいのかなどは大体予想がつくそうだ。

ドルチェの足音が消えてゆくのを耳をすませて確認すると、ディルトは机の引き出しに手をかけた。
そこから薄い白い封筒を取り出した。
先程、屋敷前にいたディルトに、仕事中のエリックの手から渡されたものだった。

「差出人が書いて無いな……」

表には屋敷の住所が記載されているが、差出人に至っては何も書かれていない。
ディルトは不思議に思いつつも、引き出しからペーパーナイフを取り出し、手紙の封を切った。
綺麗な指先が中の紙を抜き取り、開く。
そこには荒い筆跡で手紙中心部に、たった一言だけ書かれていた。


『  明日、午後4時。お前の傍にいた少女が心配なら、必ず一人で来い。  』


その下には落ち合う場所と思われる住所が書かれている。

ディルトには差出人は大体想像がつくが、断定は出来なかった。不特定多数に恨まれている自覚はあったので、今回のこともまた同じ事の繰り返しだと感じていた。
ディルトは両手の手袋を見る。
この力が吸い取るのは、依頼者の願い通りのもの。ディルトの意思では、なにものも奪えないのだ。

しかし――自身の意思で選択した結果であるのに、『こんなつもりでは無かった!』『売ったものを返して、必要なのよ!』と彼らは言う。売りに来た本人以外にも言われることは何度もあった。

(売って後悔するなら、最初から売らなければ良い)

ただそれだけの事なのに、彼らは人生を滅茶苦茶にされたと言う。


「お前の傍にいた少女を……どうするって?」
手紙を手にしたディルトは鼻で笑い飛ばしながら言う。

(彼女――ドルチェには罪など一つもない。私がドルチェを危険に晒すことなど、万が一にもあってはいけない)


カラカラとキッチンワゴンの音が廊下から聞こえる。
ディルトはもう一度、手紙に書いてある住所に目を通すと素早く引き出しに入れた。
引き出しの閉まる音とほぼ同時に、開け放たれたドアからドルチェが入ってきた。
ドルチェが押すキッチンワゴンには、二つのティーカップが並んでいて湯気が立っていた。
そこから香るダージリンの良い香りが鼻腔をくすぐり、ディルトは思わず目を瞑る。
紅茶の香りに部屋が包まれた事に、ディルトはどこか安堵していた。

「今、何かしてました……?」

いぶかしむドルチェの表情に、嘘をつき慣れているディルトの心が僅かに痛む。

(まだ自分もこんな風に傷む心というのを、持ち合わせていたんだな……)

自嘲気味に笑う主を不思議そうに見つめるドルチェに、ディルトは今まで通りの発言を返す。


 「何でもないよ、ドルチェ――」

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