シャルロット番外編 | ナノ


▼ 慌てんぼうハロウィン

「ハロウィンといえば仮装!」

と意気揚々と放った主を横に紅茶を机に置く。普段物が散乱した机も就寝前に片付けた。利点は見映えがいいこと、机の機能性を取り戻すこと、紅茶の置き場に困らないことだ。

「マスター……出来ればもう一度寝てください」

ハッと口を手で制する。頭で思っていただけなのに。
冬の朝のように冷たい言葉をかけられたディルトは、やはり何も気にしていない。
寝起き早々一体何に魅せられたのだろう。ドルチェは昨夜出したカボチャのクッキーを悔やんだ。

「良いじゃないか。行事に参加するのも市民の務めだと私は思っているよ」

「気になるものしか参加しませんよね……それは良いですけど、私は参加しません」

最近になって身近になったハロウィン。
他国のお祭りに便乗して活気付けようとしているらしい。この街では仮装した子供がお菓子を近所に貰いに行ったり、家族でカボチャパイを作るようになった。

少し変わったものなら子供達が流行らせたらしい「ノック」という遊び。
夜に家中全てのドアを閉めて、《カボチャ役》の一人だけ玄関の前で目や耳を塞いで30を数える。その間に他の家族や友達はそれぞれが室内にバラバラに入る。二階建てならカボチャ役が「一階ノック!」と言うと一階に隠れてる人が三回だけ好きなタイミングで内側からドアをノック。その時の音を頼りにカボチャ役は探しに行く。二階も同じように。
ほとんどが上手に見つけられる遊びなのに、カボチャ役が開けた部屋には誰もいなかったという事があるそうな。聞き間違いなのか、あるいは――という妄想を楽しむような遊び。
そんな遊びにも一人でノックをやってはいけないというルールがあるらしく、もし一人でやるとドアの中に本物が紛れ込んで家に住みつき家族になってしまうんだとか。

「行事は市場が潤う利点もあるけど、不特定多数との繋がりが出来る。それに家庭の愛情を増やす役割もあるんだよ」

「夫が妻に花束をあげる日、とかもそうらしいですね」

「ふふ、そうだね。その日は相手を特別だと言える絶好の機会だ」

「それで……仮装は関係ないと思うんですが」

私は子供じゃないですしと付け加える。

「……仮装をするとドルチェは当日に来る郵便くんをあっと驚かせられるし」

それこそ去年のハロウィンだ。

「それに郵便くんからお菓子を貰える」

それだって去年のハロウィンだった。
――つまりディルトは去年のエリックが大層気に入ったらしい。エリックの買ってくるお菓子は有名店ではないものの、職業柄の情報網から選りすぐりされた特別美味しいお菓子。

「……いえ、尚更私はやりません。エリックはきっとお仕事で忙しいと思います」

「……私はドルチェも郵便くんのお菓子を気になってる気がしたのだけど」

ドルチェは僅かに肩を揺らした後、口をつぐんだ。
ディルトはくすりと笑うと「仕方ないか、今回は」と紅茶を飲んだ。
ドルチェは咄嗟に瞬きを二回して主を見つめる。珍しく早々に折れた。

「仮装も郵便くんも今回は良いから、ドルチェ、その日は一緒にいよう」

片方だけ覗くアメジスト色が優しく弧を描く。
ディルトの目に温度を感じる。綿菓子のように甘く軽く、ふわりと胸に残る。
どうしてかディルトがそんな表情をするとドルチェは頷いてしまう。

「もしドルチェがいなかったら一人でノックをしてしまうよ、きっと」

頷いたというのにディルトは眉を下げる。そばにいると言ったのに寂しそうにも見えた。得体も知れないものが家に紛れるなんてドルチェはあまり信じられない。しかしディルトがやるというと本当に紛れてしまう気がして、胸の奥が木々がざわめく感覚になる。

「マスター……私、マスターだけで大変ですから……一人増えても困ります」

絞り出したように言うとマスターは吹き出してしまった。

「はははっ、ドルチェがそう言うならやってはいけないね?」

ほっと息を吐く。

「それにドルチェがいるのに失礼な発言だったね」

ごめんねとディルトは謝る。「そうです」と自然にドルチェは返した。失礼と言ったディルトの言葉が胸にすとんと落ちたのだ。
ディルトを見ると、何故か嬉しげに笑っている。

その暖かさにつられて、

「まだ良いカボチャは残っているでしょうか」

明日は温かいカボチャのパイなんてどうだろうか、少し急いてそう思ってしまった自分がいた。


_________
end

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