good afternoon my steady


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「・・・・・死体かね」

白羊宮の主がおわすベッドを前にして、シャカは思わずツッコまざるを得なかった。
シャカですらツッコミを入れたのだから今この場に他の誰が来ても全く同じ事を想っただろう。
ムウは朝餉の際に見た姿のまま、ベッドに突っ伏して寝ていた。
毛布を羽織る事はおろか、枕にすら辿り着けなかったと言う様子を中途半端に頭上の枕を掴みかけている両手が物語っていた。
どれだけ即効性の睡魔に襲われたのかと呆れを通り越して憐れみすら感じる。

「(・・・・昼前には起きる、と言っていたからどうしているだろうかと思ったが・・・、このまま放って置いた方が良さそうだな)」

辺りを見回して、ベッド脇の椅子の背もたれに薄い膝掛け毛布が掛かっているのを見つけると、シャカはそれを手に取って静かにムウの背に掛けてやった。
起こさぬようにと気を使いながらも残念に思う気持ちは隠し切れず、溜息となって口から洩れる。

「(・・・残念・・・?何を残念に思うと言うのだ、何だ今の溜息は)」

はっと思い至って、シャカは己の口を手で覆った。
己の中へ悟り切れぬ感情が泉のように湧くのを感じ、俄かに混乱する。
この世には未だ己にも理解し難い思考を持つ人間がいると言う事はアイオリアやミロや一輝を以て知った。
それ故に彼ら興味を持つようにもなった。
されど、他でもない己の感ずる所を理解出来ない言う事は今生一度も経験した事が無かったのだ。

「(何なのだ、これは・・・)」

理解できないと言うよりは、己自身が理解する事を拒もうとしているような気がした。
何故そんな気がするのかも何故理解したくないのかも、何もかもが分からない。
分からないと同時に頬と耳に眩むような熱を感じる。
思わず後ずさったシャカは背後に膝掛けが掛かっていた椅子がある事すら忘れていて、足が当たったそれは床に擦れてギギッと不快な音を立てた。
しまった、とシャカの体が硬直する。

「んん・・・・」

うつ伏せになっていたムウが僅かに声を漏らして、重たげに身を起こした。
間の悪い事にムウの眠りはそこまで深い訳では無かったらしい。
額を押さえながら半目で脇を見たムウは、視界にシャカの袈裟を捉えるとすっかり覚醒して大きな目を見開いた。

「・・・シャカ・・・!?すみません、もうそんな時間でしたか?」

慌てながらムウはサイドテーブルの時計を引っ掴む。
針が12時を過ぎている事を知り、ベッドから降りようとしてそこで初めて乙女座の異変に気付いた。

「・・・・・・シャカ?あなた、物凄く顔が赤いですよ。熱あるんじゃないですか・・・?」
「・・・・っ・・・!?」

近寄って額に手を伸ばそうとするムウから、シャカは思わず身を引いて後ずさった。
前述の通りそこには椅子があるのだが、またしてもその事はシャカの頭からは飛んでしまっていて、勢いついて足が当たった椅子は今度こそ派手な音を立てて床に倒れてしまう。
ムウは大きな目をさらに大きく見開いて驚き、シャカは自分があからさまにムウに対して逃げをうった事と椅子を倒した失態に混乱を来していた。

「あ・・・・・・・」

母音しか言葉にする事が出来ずに、顔も耳も真っ赤になって狼狽える乙女座を見て、ムウはそこで初めて何かを察する。
しかしそれは同時にあまりにムウにとって都合の良すぎる考えでもあって、期待と興奮が入り混じって彼自身も動揺する羽目となった。
何かを言われる前に、とシャカは椅子の横をすり抜けて部屋を出ようと踵を返した。

「待っ・・・・!」

咄嗟に彼の腕を引っ張ったムウは、多少バランスを崩しながらもシャカの両肩を掴んで振り向かせた。

「ちょっと・・・、もう、何で逃げるんですか・・・」
「き・・・・きみは・・・、眠いんだろう、寝ていればいい」
「起きてますって!・・・とりあえず・・・あなた、熱があるわけでは無いんですね?」

僅かに返答に詰まったシャカは、未だ真っ赤になったままで視線を脇へ逸らす。

「・・・ない」

たった二文字しかない返事は拍子抜けするほど音量が低かった。
今の彼へこれ以上を問う事はあまりに酷だろうとムウは肩の力を抜く。
自分も自分で余裕が無さすぎたと軽い反省をし、次の瞬間には目一杯の笑顔を向けた。

「なら、良かった。私はすぐに支度を整えますから。行くんでしょう?街へ」
「・・・・・・君が行くと言ったからだ」
「そうですね。私が君と行きたいから行くんです」
「・・・・・・・」

シャカの両手を両手で下から包むようにそっと握る。
耳も頬も赤い彼は押し黙ったままだった。

「・・・ねえ、シャカ」

幼い頃から離れた事が無い身長差の、一寸違わずぴったり並ぶ額へムウは自分のそれを合わせて、彼と同じように目を閉じる。

「これからも私が我が儘を言ったら、付き合ってくれますか?」

それは請願と見えて確認にも似た儀式のようだとシャカはおぼろげに思う。
答えなど恐らくはその胸中で既に察していると言うのに。

「・・・君の我が儘ならば、仕方あるまい」

予想通りの返事であろうに、牡羊座は零れ落ちそうな満面の笑みを向ける。
そんな心からの笑顔が、認めたくは無くともシャカは純粋に好きだった。
彼がこれからもそんな笑顔ばかり向けてくれればいいと、それだけははっきりと感じていた。

「私やっぱり、君と一緒に生き返れて良かったです」

友情以上の感情を隠し切れずに、寝不足の羊はそっと友の身体を抱き締める。
私もだとは言葉に出せずに、強がりの乙女座もまた彼を抱き返した。



[fin.]


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