today is sunny


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「そんな事もあったっけな」

天蠍宮のテーブルの向こう側で昼食のムサカをつつきながら、ミロがぼやく。
私も同じ物を口にしながら、少しムッとする。

「何だそれは。私だけが覚えていたようで腹立たしいな」
「怒るなって、折角のムサカが冷えるぞ」

ミロが作った大味すぎる上に具材のサイズもてんでバラバラなムサカに視線を遣る。
別段腹が空いていたわけでもないが、私のためにと彼がこさえてくれたものが冷めてしまうのは確かに勿体無く思え、気付かずに発していた凍気の小宇宙を収めた。
あの頃から6年も経った今、私がいなければ嫌だとごねたミロは体躯も何もかもが大きくなり、人のために食事を用意するようになった。

「・・・あの時はお前の方が別れを嫌がっていたのに」
「別に忘れてた訳じゃないさ。ただ今はお前が当たり前みたいに此処にいるから、あの時の事が夢みたいに思えただけ」

それこそ当たり前のようなありふれたトーンでミロは言う。
億尾もせずに心をこそばゆくさせるような台詞を言ってのけるのも、ナイフを使う事を面倒がって皿を汚しながら食べるのも、14の頃と変わらない。
私もお前がいてくれて嬉しい、その一言が言えない私も14の頃と変わらない。

「食い終わったらどこか買い物にでも行くか?そう言えばお前、見たかった映画があるとか言ってただろ」
「・・・・お前が持っているDVDだ」
「そうなのか?じゃあ後で見るか。タイトルは?」
「忘れたから・・・一緒に探す」
「・・・カミュってさ、」

最後の一口のムサカを口に運んで、私はミロに視線だけを遣る。

「・・・ウソつく時一瞬だけ左下見るよな」

その言葉に危うくフォークを取り落しかけてしまった。
己の信条であるクールさが一瞬で瓦解してしまうほどに衝撃的な台詞だった。
何故、いつからバレていたのか。

「そんなに俺と一緒にいたかったんだ?」
「・・・・・・・・」
「なあ言ってよ。そういうの、いつも俺ばっかりだろ。お前の口から聞いてみたい。俺今すっごい嬉しい」
「・・・分かっているなら・・・、察しろ」

見たい映画があると言ったのも、天蠍宮へ行くと言ったのも、単なる口実に過ぎない。
お前は今も昔も私がいなくては駄目だ嫌だ、と言うけれど、私だってお前がいなくては嫌だしお前の傍にいたいのだ。
けれどそんな事を面と向かって言えるほど、私はお前のように器用な人間ではないのだ。
いつもは気付かないか気付かないふりをしてくれるのに、こんな時ばかり素直さを求めないで欲しい。

「・・・じゃあ映画、どうする?」

ミロが質問を変える。
間に何かを噛ませなくては答える事が出来ない私のために。

「・・・・・・・いら、ない」

その言葉すら淀む私へ、ミロは大らかに破顔する。
こんな天気のいい日に一日中ソファーで戯れるなど、サガやシュラ辺りが聞いたら呆れた顔をするだろうか。
食べ終わった後の食器をそのままに、ミロが私の手首を掴む。

金色の後ろ姿に幼い頃そのままの彼を見たような気がして、私はあの頃と変わらず、彼に焦がれていた。



[fin.]


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