【正帝】今日親友にマニキュアを塗ってやったら反応が可愛かったんだどうだ羨ましいか


カチ、カチ、カチ、カチ。
狭い部屋に、時計の音が響く。
その中でただただPCに向かってバイトをする帝人。
そして、その横で文字どおりゴロゴロしている正臣。
「・・・・さっきから何してるの?」
「転がってる」
「いや、それは見れば分かるけど」
「暇だ!暇すぎる!帝人の放置プレイには飽きた!」
「『今日締め切りだからバイトするよ』って言ったのに『それでもいい』って言って家に来たのは正臣じゃん」
「でも暇だーー」
そんなやり取りをしながらもキーボードを叩き続ける帝人に、ちょっとムッとしてみせてから、正臣はあることを思いついた。
部屋の端に置いていた鞄まで転がってから、何かをごそごそと取り出し、帝人の背後に近付いた。
「帝人、手ぇ貸して」
「ちょっ、何?」
「すぐ終わるから!」
キーボードから帝人の左手が奪われる。机の上に置かれ、そして、
「マニキュア?」
「そ!昨日見つけたんだ〜!普通マニキュアって結構くせぇけど、これ、バラの香りなんだぜ!」
「へー」
するすると帝人の爪が黄色く塗られていく。
「塗るの上手だね」
「まぁな。マニキュアの塗り方ぐらい知ってないと、女の子と会話できないぞっと。じゃ、右手な!あ、乾くまであんま物触んなよ、物に付くし爪も汚くなるから」
そう言うと、正臣が帝人の右側に移動した。同じように右手も机に置かれ、黄色く塗られていく。
「で、なんで黄色なの?」
「俺の好きな色だから。他に理由はないっ!」
「なんかすごく正臣らしいや」
「へへへ」
「正臣、昔から黄色好きだったもんね。黄色、似合うよ」
「そうか?」
「うん。明るくて、周りを元気にするような。僕、黄色好きだよ」
「それは俺を好きってことか!帝人!そういうことなのか!」
「ううん。そんな意味ないから。深読みしすぎだから」
「うん、俺も帝人愛してる。じゃあ足な」
「聞いてないよね?」
「ほれ!」
胡坐をかいていた足の靴下が、無理矢理引き剥がされた。
「ちょ、何すんの!?」
「だから、足も塗るんだって」
「足も?」
「そ、そ!」
「マニキュアって手だけじゃないの?」
「ほんっと、帝人って全然物事知らねぇのな!足のはペディキュアっていうんだよ」
「そうなんだ」
同じように、足の爪も黄色くなっていく。
手のときにも、親友の顔が手のすぐそばにあることにドキリとしていた帝人だったが、足はさらに不思議な感じがした。
──大丈夫かな、足なんて、臭かったりしないかな。
  学校帰りだし、今日体育あったし、汗かいたし。。。。
  『足くせー!』なんて言われたらどうしよう。ていうか、その前になんで正臣は僕の足にマニ・・・ペディキュア?を塗ったりしてるの?
急に押し黙ってしまった帝人を見て、ふと察した正臣は、思わず吹き出した。
「大丈夫だって。別に臭かったりしねぇよ」
「えっ、なんで分かったの」
「お前、分かりやすいんだよ。顔に書いてある。マジックで」
「えー・・・。そんなに分かりやすいのかなぁ」
「おいおい、今のはマジックっていうのに突っ込むべきところであっt」
「で?もうキーボード打ってもいい?」
「スルーかよ、てか最後まで聞けよ。…へいへい、どれどれ?」
一通り足を塗り終わった正臣が、帝人の左手を手に取る。帝人は、全力で平静を保った。
「ん。もう良さそうだな!だが!まだだぞ!動くなよ!」
動くなよ、と連呼しながら帝人から離れ、正臣は鞄から再び何かを取り出した。
それは、緑色のマニキュアの小瓶だった。
大人しく机の上に置いていた帝人の左手の薬指に、緑の小さなハケがそっと触れた。
「この色を重ねてな、この色を重ねてな、フレンチにしようと思うたのじゃ」
「羅生門か。で、フレンチって?」
「こうやって、上半分に違う色を重ねる塗り方のこと」
「へー。そんなのあるんだ」
「一昨日ナンパした女の子から聞いた」
「あっ、そ」
帝人は、その言葉にちょっとだけ胸がちくりとするのが、自分でもなぜだか分からなかった。
「帝人って緑って感じだよなー」
「そう?」
「なんか、癒し、って感じ?」
にぱっ、と笑う正臣。
「そんなドヤ顔スマイルされても」
「ドヤ顔じゃねーし!素敵な紀田くんスマイルでしょーが!」
「1/3点」
「何気にそれ√3点より低いよね!?」

緑のマニキュアが乾ききるやいなや、日付が終わるまでに仕事を終わらせるべくキーボードを叩きまくる帝人の横でさんざん騒いでから、日付が変わる頃、正臣は帰っていった。
無事に納入し終えてから、ふと手元に目をやり、あることに気付く。
「あ・・・」
──これ、どうやったら落ちるんだろう。
マニキュアなんてしたことのない帝人には、リムーバーなんてものの存在が分かるわけもなく。
そして当然、コンビニに行けば簡単に手に入るなんてことも知らず。
──しょうがない、正臣にメールして、明日落としてもらおう。
  明日が休みでよかった。明日も学校だったら、このまま学校に行くことになって、間違いなく先生に怒られてしまう。
黄色くなった十本の指をじっと見つめる。ほのかに、人工的なバラの香りがする。
──なんだろう、すごく嬉しい。
そして、一か所だけある、緑の存在に目が行く。
──そういえば、なんでここだけフレンチなんだろう?
  何か意味あるのかな。
「マニキュア 左手 薬指 意味」で検索してみる。
ヒットした一番上のサイトをクリックすると、その中に、左手の薬指という項目があった。
「『恋人との愛の絆をより一層深め、愛する人との絆をいっそう深める』・・・」
爪を包むようにして、ギュッと手を握り締めた。
──明日が休みで、本当に良かった。

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